コラム
2016年11月15日

長寿化時代の“資産”づくり-「長生きリスク」への処方箋

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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内閣府の『平成28年版高齢社会白書』によると、2060年の日本人の平均寿命は、男性84.19歳、女性90.93歳に達する。一方、2012年に462万人だった認知症患者数は、2060年には850~1154万人と推計されており、65歳以上高齢者の3~4人にひとりが認知症になる。また、2013年の65歳以上高齢者の有訴者率*は466で、半数近い人が病気やけが等で何らかの自覚症状を訴えている。超高齢化を迎える日本社会は、「長寿化」を手放しで喜べる状況ではないことがわかる。

同白書によると、公的年金・恩給が総所得のすべてである高齢者世帯は56.7%に上り、貯蓄の主な目的は「病気や介護への備え」が62.3%を占める。また、就労を希望する高齢者の割合は約7割あり、高齢期の健康や家計に対する不安の大きさが窺われる。リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著『ライフシフト~100年時代の人生戦略』(東洋経済、2016年11月)でも、人々は「長寿化」により一層長い年数働かなければならなくなると指摘しており、長寿化時代の働き方が大きな課題になるだろう。

長寿化時代の働き方はどうなるのだろうか。これまでのように就学期間が終わって新卒採用され、定年を迎えるまで終身雇用が保障される働き方は少なくなるだろう。長寿化により就業期間が50年に及ぶ一方、産業や企業がそれほど長期にわたり存続するとは限らない。また、以前のOA化やIT化が示すように、われわれが持つ職業スキルも生涯にわたり通用するわけではない。今後、ロボットや人工知能(AI)の普及にともない、常に職業スキル向上のための自己投資が必要になるだろう。

前述の『ライフシフト』は、長寿化時代には「教育」「仕事」「引退」という固定的ライフステージから多様なキャリアを経験する「マルチステージ」の人生への移行が必要であり、実現のためにはお金などの有形資産と健康・スキル・人間関係などの無形資産をバランスよく形成すべきだと主張する。そして長い人生を支えるのに必要な無形の資産をどのようにマネジメントするかが重要だと述べている。

今後、長寿化社会では体力・知力の衰えや人間関係の変化に即して、時間や場所などに制約されない柔軟な働き方が求められる。職業能力を高めるためには、キャリアをいったん中断することも必要になるかもしれない。長生きリスクを乗り越え幸せに生きるには、新たな自己投資による多くの有形・無形の“資産”づくりが必要だ。長寿化時代のライフコースは複雑で多様なものになり、一人ひとりが自己アイデンティティにもとづくライフスタイルを選択しなければならない。今、高齢先進国である日本にとって、本当に「長寿化」を喜べる社会を実現できるかどうかが問われている。
 
 
* 人口千人当たりの「ここ数日、病気やけが等で自覚症状のある者(入院者を除く)」の数
 (参考)研究員の眼『人口減少時代の「働き方改革」~長時間労働なくす生産性の向上を』(2016年11月8日)
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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2016年11月15日「研究員の眼」)

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