2016年11月14日

リハビリテーションの浸透-患者のQOLの改善は進むか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4――リハビリテーションスタッフの拡充

リハビリテーションスタッフの拡充において、質を維持しながら供給を拡大させることは、簡単ではない。ここでは、これまでの拡充にあたっての課題について、見ていこう。

1リハビリテーションスタッフの需要は高まっている
都道府県は、地域医療構想の策定に取り組んでいる。その際、医師や看護師等とともに、PT、OT等、医療スタッフの見通しが必要となる。厚生労働省は、需給見通し分科会を設けて、議論を行ってきた。

見通しは、病床機能体制変更(高度急性期や急性期の病床を回復期や慢性期の病床に再編)の影響も受ける。回復期には、患者のリハビリテーションが行われる。そのために、PT、OTの需要は高まる。

これに加えて、地域包括ケアシステムの導入も影響してくる。今後、在宅での医療・介護の実施が進めば、訪問リハビリテーションを行うPT、OTの拡充が必要となるものと考えられる。同分科会は、2016年末に報告書を公表した。それによると、PT、OTの需要は増加していくとされている。

2リハビリテーションスタッフの供給は、すぐには拡大しない
PT、OTの養成数は徐々に増加しており、供給体制が整備されつつある。しかし、一般に、医療人材の養成には時間がかかる。PT、OTも同様で、一朝一夕に、供給を拡大させることは困難であろう。
図表4. 理学療法士・作業療法士の養成
3リハビリテーションスタッフの資格試験の合格率は低迷
国家試験の合格率の推移を見ると、PTは以前は90%台にあったが、ここ数年は90%に達しない状態が続いている。OTは、過去10年間合格率が90%を下回っている。これらは、毎年90% 付近で推移している看護師と、対照的となっている。専門職スタッフ数を、急増させようとすると養成がなおざりとなりかねない。リハビリテーションを担うスタッフの養成にも、目を配る必要があろう。
図表5. 国家試験の合格者数・合格率推移
4有資格者の1割以上は就業していない
有資格者の未就業も、課題として挙げられる。PTについては、60歳までの就業率は、男性で約90%、女性で約80%となっている4。OTについては、60歳までの就業率は、男性で約95%、女性で約85%となっている5。ただし、OTは女性割合が6割を超えており6、男女合計の就業率は90%未満となっている。今後、有資格者の未就業が増えれば、人材の医療現場への供給の足かせとなる可能性がある。

5リハビリテーションスタッフの社会的認知度が低いことが、根本的な課題
一般に、PT、OTの職種に対する社会的認知度は低いものと見られる。通常、リハビリテーションを行っても、患者の状態が急に回復することは少なく、急性期医療のような劇的な効果は現れない。このことが、PTやOTの専門性が評価されにくい一因と考えられる。医療職種の給与を比較すると、平均年齢や勤務年数が異なる点に留意を要するものの、 総じて、PTやOTは低い水準にあると言える。
図表6. 職種別の給与額
リハビリテーションスタッフの需給バランスが失われると、様々な問題が生じてこよう。例えば、地域医療の展開にあたり、地域ケア会議に、PTやOTが参加できず、医師・看護師や介護スタッフ等との多職種連携が進まない。その結果、効果的なリハビリテーションが展開できない事態となる。
 
 
4 「理学療法士を取り巻く状況について」(公益社団法人 日本理学療法士協会, 医療従事者の需給に関する検討会 第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会 資料5 (平成28年4月22日))より。
5 「作業療法士を取り巻く状況について」(一般社団法人 日本作業療法士協会, 医療従事者の需給に関する検討会 第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6 (平成28年4月22日))より。
6 逆に、PTは、女性割合が4割程度となっている。
 

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

今後、高齢の患者・要介護者の増加に伴い、リハビリテーションの重要性は高まっていくであろう。特に、自宅や介護施設等での、訪問リハビリテーションのニーズは高まるものと考えられる。総合診療医・訪問看護師等と併せて、地域の医療・介護のキー・プレーヤーとして、PT、OT、ST等のリハビリテーションスタッフが欠かせない存在となるものと考えられる。そこでは、スタッフ間の連携をとりつつ、チーム医療を進めることが求められよう。スタッフの社会的認知度の向上も、必要となろう。

引き続き、リハビリテーションの動向に、注意が必要と思われる。

(参考) 欧米の自然療法士

欧米では、自然療法が古くから浸透しており、自然療法士(Natural Therapist, NT)の養成が進んでいる。自然療法は、伝統的治療法と19世紀にヨーロッパで普及した健康法を組み合せて発展した医療体系で、ヒトの持つ自然治癒力を重視する。そこでは、様々な伝統的、近代的治療法が用いられる。

自然療法は、ドイツで始まったとされる。施術者は、患者の身体に備わっている、健康を維持・回復させる力を手助けする。食事内容の変更や、運動療法など、人体への侵襲7を最小限にとどめる治療法が選ばれる。原則、処方薬、注射、手術等は行われない。現在、自然療法はアメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、オーストラリアなど、多くの国で実施されている。アメリカでは、自然療法医の医師資格がある。一部の州では、NTが法律で保護されている。ただし、一般的な健康法としての自然療法については十分な研究が行われていないのが実態とされる8。また、自然療法の中には、通常医療と一致しないものもあり、その安全性が科学的に証明されていない場合もある9。自然療法の実施の際は、医師と患者が情報を共有することで、安全な治療による健康管理を図ることが不可欠と言える。
 

 
7 医学で、生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激全般をいう。投薬・注射・手術などの医療行為や、外傷・骨折・感染症などが含まれる。
8 例えば、ハーブ・サプリメントの使用、食事制限、特殊な食事療法などは、十分に熟練した施術者の指導の下で行わないと健康に害を及ぼす可能性がある。
9 例えば、施術者の中には小児へのワクチン接種を推奨しない人もいる。通常医療(西洋医学を用いた医療)では、ワクチンが病気や死亡を防ぐ有益性は、何度も証明されており、リスクを大きく上回るものとされている。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2016年11月14日「基礎研レター」)

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