2016年11月14日

リハビリテーションの浸透-患者のQOLの改善は進むか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本では、人口の高齢化が進んでいる。それとともに、高齢患者も増加している。1951~80年の30年間、日本の死因第1位は、脳血管疾患であった。近年、脳卒中を引き起こす脳梗塞で、高度医療機器による診断や、血栓溶解療法による治療などの医療技術が進歩し、一命を取りとめるケースが増えた。1981年に、死因第1位は悪性新生物に代わった。2011年に、脳血管疾患は3大死因から外れた。

ただし、死亡を免れても麻痺が残るなど、完治せずに、要介護状態となる場合は多い。患者の生活の質(Quality Of Life, QOL)を回復するために、リハビリテーションが重要となる。本稿では、理学療法士、作業療法士等に焦点を当てて、リハビリテーションの現状を見ていくこととする。
 

2――リハビリテーションスタッフの現状

2――リハビリテーションスタッフの現状

要介護者、障がい者等のリハビリテーションを担う医療スタッフの主な国家資格として、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が挙げられる1。それぞれの資格を得て、従事している人の数は、年々、増加している。簡単に、それぞれの現状を見てみよう。
図表1. リハビリテーションスタッフ(常用換算従事者数)の推移
1医療スタッフは資格に応じてリハビリテーションの専門分野で機能を発揮している
医療スタッフは、医師の指示のもとで、患者のリハビリテーションを支援する。2

(1)理学療法士(PT)
1965年に国家資格となった。PTは、動作の専門家で、寝返る、起き上がる、立ち上がる、歩くなどの日常生活の中で基本となる動作の改善を目指して、患者の動作練習や歩行訓練などを行う。

(2)作業療法士(OT)
1965年に国家資格となった。食事、入浴など日常生活にかかわる全ての活動を「作業」と呼び、OTは、着替え、排泄、家事、仕事、余暇、地域活動などの作業ができるよう、患者を援助する。

(3)言語聴覚士(ST)
1997年に国家資格となった。STは、話す、聞く、表現する、食べるなど、言葉によるコミュニケーションや、嚥下(えんげ)に支障を持つ患者の社会復帰を支援する。

2各医療スタッフとも、病院勤務割合が高く、在宅医療・介護への従事は限られている
PTの7割以上が、病院や一般診療所に勤務している。近年は、介護関係で、通所介護・通所リハビリテーション等に従事するPTが増加している。OTは、病院での勤務割合が高い。老人保健施設等の介護保険施設で、リハビリテーションに従事するOTも、一定の割合を占めている。STは、病院での勤務割合が約8割と高い。介護関係で、リハビリテーションを行うSTは、2割未満に限られている。
図表2. リハビリテーションスタッフの勤務先分布 (2014年)
 
1 この他にも、視力低下者のリハビリテーション指導を行う「視能訓練士」や、患者に合う義手、義足、コルセット等の製作・適合を行う「義肢装具士」(いずれも国家資格) などが、リハビリテーション関連の専門職として活躍している。
2 PTはPhysical Therapist、OTはOccupational Therapist、STはSpeech-language-hearing Therapistの略。
 

3――医学的リハビリテーションの取組み

3――医学的リハビリテーションの取組み

前章まで、リハビリテーション3という用語を、特に定義せずに用いてきた。実は、この用語は、これまで様々に定義されてきた。1968年に、世界保健機関(WHO)は、次の定義を示している。
 
・ 障がいの場合に、機能的能力が可能な限りの最高のレベルに達するように、個体を訓練もしくは再訓練するため、医学的・社会的・教育的・職業的手段を併せ、かつ調整して用いること

日本では、主に1980年代以降、患者・障がい者の回復に注目が集まるようになってきた。そこでは、チーム医療と、医療施設以外でのリハビリテーションの浸透がポイントとされている。

1リハビリテーションでは、チーム医療が古くから根付いている
現代の医療は、チームで行われることが一般的である。通常、病気の急性期には、医師の診療を中心に、看護師、臨床検査技師、臨床工学技士、診療放射線技師、薬剤師等が、チームを組んで患者の救命にあたる。1970年代頃まで、医療は、急性期の診療が中心で、命を救うことに大きな比重が置かれていた。例えば、脳卒中であれば、脳の出血を止めるための医療処置にスポットライトが当てられた。そこでは、医師中心の救命チームが、手術や集中治療を行うことが重視された。

1980年代以降、一命をとりとめた患者の、回復にも目が向けられるようになった。回復期や慢性期以後の患者の障がいの状態や、QOLに関心が向けられるようになった。脳卒中の例では、出血が止まり、容態が安定した患者に対して、リハビリテーションを行い、機能回復を図ることが重要とされてきた。医師の指示のもとで、看護師、PTやOT等からなるリハビリテーションチームが組まれている。

実は、チーム医療は、リハビリテーションでは、従来から行われてきた。回復期・慢性期の息の長い医療では、1人の患者に対して、チームで手分けしてケアにあたる必要があった。そこでは、個々の身体機能だけではなく、患者を全人的に捉えて、チーム内で連携し合うことが求められてきた。

2患者の自宅や介護施設で、リハビリテーションの浸透が図られている
今後、地域包括ケアシステムの導入に伴い、病院での医療から、自宅・介護施設での介護へと、高齢患者ケアのシフトが進むこととなろう。リハビリテーションも、公的医療保険が担当する急性期・回復期の入院から、公的介護保険が対象の要介護者等の維持期のものへと移行することとなる。在宅でのリハビリテーションの重要性が高まり、PT、OT等の活躍の場が、拡大していくものと考えられる。2016年の診療報酬改定では、要介護被保険者の維持期リハビリテーションの介護保険への移行等、生活機能に関するリハビリテーションの実施場所の拡充、リハビリテーション専門職の専従規定(施設の専従規定)の見直しが図られた。自宅や介護施設等での、リハビリテーションの実施が促されている。
図表3. 2016年診療報酬改定(リハビリテーション関係)の基本的な考え方 (抜粋)
 
3 なお、リハビリテーションは、医学的リハビリテーション、職業的リハビリテーション、社会的リハビリテーションに分類される。これは、リハビリテーションが、身体機能の回復のみならず、職業活動や社会活動を通じて、障がい者の職業や社会への適応を目指すものであることに起因する。(「リハビリテーション」砂原茂一 (岩波書店, 岩波新書(黄版)139, 1980年)をもとに、筆者まとめ)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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