コラム
2016年11月14日

都道府県別結婚式費用とそのエリアの結婚事情の関係性-少子化社会データ再考:エリアの派手婚・地味婚度合いは「結婚力」に関係するか-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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都道府県別 平均結婚式費用の現状

経済産業省の「平成27年特定サービス産業実態調査」のデータを用いて各都道府県の結婚式費用(挙式金額、披露宴金額の合算)の平均金額を比べた結果が図表2である。
【図表2】結婚費用 高額(左)・低額(右)ランキング (万円)
平均結婚式費用は、各都道府県の結婚式場業務の売上高を集計対象となった売上件数で割ることで算出している。1件当たり売上高のトップは沖縄県であり、突出した数値となっている。しかしこの沖縄の突出した数値は、そのエリア在住者の結婚というよりもリゾート挙式をあえて希望し、他のエリアから来訪して高額の結婚式を行っているケースが多く含まれると思われる。

その理由は、国内におけるリゾート挙式の中で2015年にもっとも選択されたエリアは軽井沢(32%)、ついで沖縄(26%)であり、この2エリアが圧倒的な割合となっている3。軽井沢は比較的近接エリア(関東、北陸、東北など)からの選択となっているが、沖縄は北海道、東北といった遠方を含めて全エリアから1番、もしくは2番目に選択されているリゾート挙式地となっており、一生に一度の挙式であるからと高額挙式を志向して選ばれている様子が窺えるからである。

この特異なケースの沖縄を除くと、結婚式費用の多い「派手婚」エリアでは、およそ400万円から500万円が平均結婚式金額となっている。一方、少ない「地味婚」エリアでは300万円弱といったところである。
 
3 ゼクシィ結婚トレンド調査2015より

結婚式費用と初婚年齢 -結婚式にかけるお金は結婚年齢に影響するか-

平均金額を算出する売上高に満たないなどの宮城・秋田・奈良・和歌山(以下、ナシ婚4エリア)を除く43都道府県の平均結婚式費用と各都道府県の男性、女性の平均初婚年齢(2015年:厚生労働省 人口動態調査)の相関分析を行った。

結果、男性平均初婚年齢との相関係数は-0.06、女性は0.02で相関関係は見られなかった。特殊エリアである沖縄を除いた場合の結果も男性0.13、女性0.16であり、沖縄を含めても含めなくても、結婚式費用と初婚年齢の間には相関関係はない、といってよいだろう。
結婚式費用と男女の初婚年齢の関係

結婚式費用と生涯未婚率 -結婚式にかけるお金は未婚化に影響するか-

次に、同じくナシ婚4エリアを除く43都道府県の平均結婚式費用と男女の生涯未婚率(2010年:社会保障人口問題研究所 人口統計資料集)との相関分析を行った。
 
相関係数は男性の生涯未婚率が0.41、女性が0.19で男性は正の相関あり(図表3)、女性は相関なし、という結果であった。しかしながら、他のエリアに比べ特性の異なる挙式事情が想定される沖縄を除いた相関分析を行うと、相関係数は男性で0.11、女性で-0.01であり、男女ともほぼ相関関係が見られなかった(図表3)。ちなみに、沖縄を含めたケースで考えるならば、結婚式費用をかけるエリアの方が男性の生涯未婚率が高くなる傾向がみられる(もしくは男性の生涯未婚率が高いエリアは結婚式費用が高い傾向がみられる)ということになる。
【図表3】結婚式費用と男性の生涯未婚率の相関関係(縦:男性未婚率、横:結婚式費用)
結婚式費用と男女の生涯未婚率の関係

お金が結婚の壁の思い込み打破の重要性

未婚の原因は「お金が足りないから」という幻想-少子化社会データ検証:「未婚化・少子化の背景」は「お金」が一番なのか-では、日本における社会の「お金が足りないから結婚できない」という思い込みこそが結婚の最大の壁となっていることを示した。

今回の都道府県別結婚式費用と結婚事情の関係性の分析でも、やはり「お金が足りないから近いうちに結婚が難しい」という結婚意志のある未婚男女の考えに対して、お金のかかる派手婚エリアでも、あまりかからない地味婚エリアでも初婚年齢、生涯未婚率ともに変わらないという結果が得られた。結婚式費用の問題とカップルの成婚の問題の関係というものは、特に「お金が少ないから」という理由からの説明は統計的には非常に説明が難しい。

つまり、お金は近い将来結婚する場合に未婚者に立ちはだかるモンスターというよりも、モンスターのように「見える」だけではないだろうか。
 
近年、若い世代ほど結婚式費用を全くかけずに入籍する結婚が多く選択されるようになってきている。民間調査4によれば、20代では結婚式・披露宴をともに行うカップルは半数を割り、一方で入籍のみのカップル「ナシ婚」カップルが4割にも達している。既婚カップルへの調査結果を見ると、若い世代では「結婚式にこだわらず、その費用をカットして結婚する」という選択をするカップルが増加している様子がはっきりと現れている。
20代のナシ婚率と30代のナシ婚率の関係性
海外の研究成果も加味すると5、ますます「そもそも結婚という最も複雑で深い人間関係構築の推進力として、第一にお金を列挙しようとするものの考え方」こそが、未婚男女を結婚の夢の実現から遠ざけている最強のモンスターなのではないだろうか、と思わざるを得ないのである。
 
 
4 ⅰと同じ(アニヴェルセル株式会社 調査)
5 アメリカのエモリー大学の調査 (A Diamond is Forever’ and Other Fairy Tales: The Relationship between Wedding Expenses and Marriage Duration Andrew M. Francis & Hugo M. Mialon ,Emory University - Department of Economics,September 15, 2014)では、いわゆる「派手婚」カップルの方が「地味婚」カップルより離婚しやすい、という「結婚はお金派」にはかなり残念な結果が示されている。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2016年11月14日「研究員の眼」)

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