2016年11月08日

夫婦控除の創設について~家計の可処分所得への影響~

白波瀨 康雄

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3―夫婦控除創設による世帯の可処分所得への影響

配偶者控除を廃止し、夫婦控除を創設した際の、世帯の可処分所得に与える影響を試算する。最初に、試算の前提を示し、配偶者控除が廃止された場合、世帯にどれだけの負担増加が生じるか試算する。
 
i)試算の前提
夫婦控除については、(1)控除の額、(2)所得制限の上限額、(3)所得制限の単位(世帯/個人の別)等、肝心な部分が決まっていない。これらをどう仮定するかによって、結果も大きく変わってくる。ここでは、以下の前提を用いる。

(1)夫婦控除の控除額
夫婦控除の控除額設定については、1) 配偶者控除廃止に伴う世帯の負担増を補う控除額であること、2) 税制中立(低所得者は減税し、高所得者には増税することで、改革前後で全体の税収は変わらない)を保つものであること、の点に留意する。

配偶者控除で用いられる所得控除方式の仕組み上、同控除の廃止に伴う負担増は、所得税率の高い高所得者の方が低所得者よりも大きい。仮に、その高所得者の負担増分を、税額控除方式を用いる夫婦控除の控除額に据えれば、税制中立の維持は難しくなる。従って、ここでは、配偶者控除適用率が低いとされる主たる生計者の年収~万円世帯が負担を被らない水準を夫婦控除額として仮定する。(次項3.ii参照)

(2)所得制限の上限額
配偶者控除で指摘される「低所得者層の適用率の低さ」の背景には、配偶者控除の比較的に低い上限(配偶者年収万円、万円)があることを前項で述べた。夫婦控除の所得制限は年収~万との報道が既にあり、水準的に見てもここではその平均である年収万円と仮定する。

(3)所得制限の単位(世帯/個人の別)
所得制限の対象を「主たる生計者の年収」に据えて試算を行う。
ii)年収200~400万円世帯で配偶者控除廃止に伴う負担増が生じない夫婦控除の水準
(図表8) 配偶者の年収を3つのケースに分け、配偶者控除廃止に伴う世帯の負担増の金額を示したものが、図表8である。3つのケースは、配偶者(特別)控除の控除額が最も多い38万円となる(1)年収103万円以下、最も少ない3万円となる(2)年収140万円、その中間の16万円となる(3)125万円に区分した。控除の廃止により、それを享受してきたどの世帯も負担が増えることに変わりはない。ただ、負担増の多寡で見ると、配偶者控除を受ける(1)配偶者年収103万円未満の負担増加が最も大きく、年収200~400万の層では5.2万円、年収1200万円では12.0万円となる。配偶者特別控除を受ける(2)配偶者年収125万円、(3)同140万円世帯の負担増加はより少なくなっている。

3.i)(1)の考えに従い、本稿では、夫婦控除の税額控除額を配偶者控除廃止によって主たる生計者の年収200~400万円世帯が被る負担増5.2万円(所得税1.9万円・住民税3.3万円)とする8
 
8 所得税率は5%であり、この税率は納税者の6割を占める。
iii)配偶者控除廃止と夫婦控除創設による可処分所得への影響に関する試算

以上の前提に基づき、片働き世帯(配偶者年収:0万円)、共働き世帯(配偶者年収:300万円)について、主たる生計者の年収ごとの家計の可処分所得に与える影響を試算する。共働き世帯の配偶者控除の年収を300万円としたのは、既婚女性の給与所得者の所得分布をみると、300万円以下が30歳代、40歳代で79%と大多数を占めるためである9
 
9 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成24年版」
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白波瀨 康雄

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