2016年11月07日

【インドネシア7-9月期GDP】前年同期比5.02%増~歳入不足を背景に政府支出が落ち込み、景気は減速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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インドネシアの2016年7-9月期の実質GDP成長率1は前年同期比(原系列)5.02%増と、前期の同5.19%増から低下、また市場予想2の同5.08%増を若干下回った。
 
需要項目別に見ると、公共部門の鈍化が成長率の低下に繋がった(図表1)。

GDPの約6割を占める民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.04%増と、2期連続で5%台を維持したものの、前期(同5.10%増)から小幅に低下した。食料・飲料や保健・教育、輸送・通信が堅調に推移する一方、ホテル・レストランやアパレルが鈍化した。

また政府消費は前年同期比2.97%減(前期:同6.23%増)と大きく低下した。予算執行は年前半まで順調だったが、歳入不足に伴う予算削減の影響で9期ぶりのマイナスとなった。

総固定資本形成は前年同期比4.06%増と、前期の同5.06%増から低下した。建設投資が伸び悩んだほか、機械・設備と自動車が前期に続いて低迷した。

外需については、輸出が前年同期比6.00%減(前期:同2.42%減)とマイナス幅が拡大した。サービス輸出は拡大した一方、非石油・ガスに加えて石油・ガスがマイナスに転じた。また輸入は前年同期比3.87%減(前期:同2.93%減)と内需の鈍化を受けてマイナス幅が拡大した。その結果、外需の成長率への寄与度は▲0.55%ポイントと、前期(+0.07%ポイント)から減少した。

供給項目別に見ると、景気の牽引役であるサービス業が4期振りに鈍化したほか、鉱工業と農林水産業は前期に続いて伸び悩んだ(図表2)。
(図表1)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表2)インドネシア 実質GDP成長率(供給側)
鉱工業では、鉱業が同0.13%増(前期:同0.09%減)と金属鉱石が大きく上昇して7期ぶりのプラスに転じたものの、製造業が前年同期比4.56%増(前期:同4.64%増)、建設業が同5.69%増(前期:同6.21%増)とそれぞれ低下した。

サービス業では、運輸・倉庫が同8.20%増(前期:同6.91%増)と上昇した。しかし、卸売・小売が同3.65%増(前期:同4.06%増)、ホテル・レストランが同4.55%増(前期:同4.92%増)、金融・保険が同8.83%増(前期:同13.59%増)、不動産が前年同期比3.70%増(前期:同4.46%増)、情報・通信が同9.20%増(前期:同9.85%増)、ビジネスサービスが同6.95%増(前期:同7.57%増)、教育サービスが同1.87%増(前期:同5.13%増)、行政・国防が同3.81%増(前期:同4.36%増)と全体的に低下した業種が多かった。

農林水産業は同2.81%増と、エルニーニョ現象の影響でコメの収穫期がずれ込んで高め水準となった前期(同3.35%増)から低下した。
 
7-9月期の景気減速は、政府支出の落ち込みによる影響が大きい。16年度当初予算では、歳入は1,822.5兆ルピアとしていたが、想定よりも税収が伸びなかったことから第一次補正予算では1,786.2兆ルピア、第二次補正予算では1,567.2兆ルピアと次第に下方修正されていった。これに伴って歳出も削減を余儀なくされ、政府支出は1-6月の前年比11.8%増から1-9月には同4.5%増まで低下し、7-9月期の景気の重石となった。

こうした税収不足への対応策として、政府は7月からタックス・アムネスティ(租税特赦)制度をスタートした。低い税率が適用される第一期(7-9月)の資産申告額は3,621兆ルピアと、来年3月までの目標額(4,000兆ルピア)の9割に達し、総じて好調に推移しており、一段と財政が悪化するリスクは回避したかに見える。もっとも10月に成立した17年度予算案では歳出が2,080.5兆ルピア(16年度比0.7%減)と、今後も公共部門に期待ができない状況には変わりはない。
(図表3)インドネシアの金利、マネーサプライ、貸出残高 金融政策の面では、10月の金融政策会合で今年に入って6度目の利下げを決めるなど、これまで段階的に金融緩和を進めてきたものの、今後は追加利下げが見込みにくくなってきている(図表3)。インフレ率は中銀目標(3~5%)の下限付近で推移しているほか、また景気の弱含みを背景に企業の投資意欲が高まらず、銀行の貸出は依然として上向いていないなかでは、中央銀行は追加の金融緩和を望んでよう。しかし、今後は11月の米国の大統領選挙と12月に予想される米FRBの利上げを控えており、これまで安定していた為替レートは不透明感が強まりつつある。通貨安に伴う輸入インフレのリスクを抱えるなかでは、インフレ率が一段と低下するなど、新たな材料が出てこなければ、現行の金融政策を維持すると見られる。

以上のとおり、政府支出と金融政策は以前ほど景気をサポートしなくなってきており、同国の本格的な景気回復は当面見込みにくい状況になってきている。
 
 
1 11月7日、インドネシア統計局(BPS)が2016年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2016年11月07日「経済・金融フラッシュ」)

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