2016年11月01日

年金改革ウォッチ 2016年11月号~ポイント解説:次期制度改正議論の進め方

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   中嶋 邦夫

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■要旨

1 ―― 先月までの動き

先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されませんでした。

2 ――― ポイント解説:次期制度改正議論の進め方

2015年1月に社会保障審議会年金部会がとりまとめた「議論の整理」では、基本的方向性の1つとして「国民合意の形成とスピード感を持った制度改革の実施」が挙げられました。本稿では、次回の財政見通しや制度改正に向けた議論の進め方について、この方向性の観点から考えます。

  1|合意形成には、十分な事前の議論や分析が必要
  2|十分な事前議論とスピード感の両立には、
    試案試算前の議論整理と早期の議論開始が必要
  3|政治的な混乱を避けるには、人々の冷静な対応が必要
 

1 ――― 先月までの動き

1 ―― 先月までの動き

先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されませんでした。
 

2 ―― ポイント解説:次期制度改正議論の進め方

2 ―― ポイント解説:次期制度改正議論の進め方

2015年1月に社会保障審議会年金部会がとりまとめた「議論の整理」では、基本的方向性の1つとして「国民合意の形成とスピード感を持った制度改革の実施」が挙げられました。本稿では、次回の財政見通しや制度改正に向けた議論の進め方について、この方向性の観点から考えます。

1|合意形成には、十分な事前の議論や分析が必要
最終的な国民合意を形成する場は国会であり、そこでの真摯な議論が重要であることは論を待ちません。しかし、国会での議論は短期的な思惑で政局になる可能性があるため、長期的な視点も併せ持った事前の議論や分析が必要です。それを担う公的な場が、社会保障審議会の年金部会です。

同部会は2002年1月の発足以来、従来型審議会のような担当大臣からの諮問に対して答申する、という形式をとっていません。公開された場で、分析や試算を参考にしながら委員が意見を持ち寄り、議論を整理して公表するのが、同部会の役割です。

2|十分な事前議論とスピード感の両立には、試案試算前の議論整理と早期の議論開始が必要
年金部会の議論は報道される機会が多いため、委員だけでなく一般の人々の理解のキャッチアップも意識して、議論を進めることが期待されます。

これまでの財政見通しや年金部会での議論の経過は図表1のとおりです。5年ごとに国勢調査が実施され、それをもとに新しい将来推計人口が作られ、それをもとに年金財政の見通しが作られるのが大きな流れです。ただ、年によって違いも見られます。年金部会の議論は新しい将来推計人口の公表後に開始されるのが通例ですが、2012年に社会保障・税一体改革が議論されていたためか、2014年の財政見通しに関する議論は開始が遅れました。また、2004年や2009年の財政見通しの過程では暫定試算をもとに議論が進められ、同部会の意見整理公表後に最終的な財政見通しが公表されていましたが、2014年の財政見通しの過程では最終的な財政見通しをもとに議論が進められ、意見整理が行われました。ただ、2014年の財政見通しの過程では、議論の開始が遅れたせいもあり、どのような試案の試算(オプション試算)を行うかについて意見集約が不十分でした。
図表1 これまでの財政見通しや議論の経過
これらの経緯を振り返ると、一般の人々の理解も意識した十分な議論のためには、(1)残された課題や年金数理部会の指摘(ピアレビューと財政状況報告)の確認、(2)新しい将来人口を踏まえた現状の把握(暫定試算の実施)、(3)検討すべき見直し策(試案)の議論とその整理、(4)財政見通しの役割・限界や用いる前提の確認、(5)財政見通しや試案の試算の実施、(6)財政見通しや試案の試算結果を踏まえた議論、(7)制度改正に向けた議論の整理、という着実な手順を踏む必要があるでしょう。

特に、財政見通しの意義や試算の限界を踏まえながら、どのような見直し案を試算するかを事前に十分議論して整理することが重要です。また、スピード感と両立させるには、来年1月と想定される新しい将来人口推計の公表後に、素早く暫定試算を行うことが重要でしょう。さらに、法律の「少なくとも5年ごとに」という規定や被用者年金一元化で財政再計算(保険料率の決定)が不要になったことを踏まえて、従来よりも早めに(2004年改正過程における改正試案[2002年12月]と同様の時期に)財政見通しや試案の試算を公表して議論を煮詰め、改正法案の早期提出につなげることも一案でしょう。

3|政治的な混乱を避けるには、人々の冷静な対応が必要
法案提出後に最終的な国民合意をどう取り付けていくかは、大きな課題です。年金制度には長期的な視点が欠かせませんが、政治的な議論やメディアからの情報は近視眼的になるリスクがあります。また、公的年金制度はこれから生まれてくる世代も含めてすべての人々が加入する制度ですが、それが故に、立場を分断して対立を煽るような議論が提示されるリスクもあります。

これらのリスクを抑えるには、人々が長期的かつ幅広い視点を持ち、冷静に対応することが重要です。公的年金制度の関係者は広範囲であるため、すべての人にとって完璧にするのは困難です。また、ある程度完成された制度でも、状況変化に合わせて見直していく必要があります。その際、特定の立場からの制度改正をことさらに主張しても、国民的な合意には結びつきません。立場の違いを踏まえて、他の立場の人々のことも思いやり痛みを共感することが重要です。

さらに、人々が冷静に対応すれば、政治やメディアによる対立的な煽動も抑えられるでしょう。

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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度

(2016年11月01日「保険・年金フォーカス」)

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