2016年10月31日

インドの生命保険会社の状況-2015年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

中村 亮一

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(参考)EV(Embedded Value)の公表
EVについては、ICICI Prudential、HDFC Standard、Max Life、Bajaj Allianz等の生命保険会社が公表している。算出方式は、ICICI PrudentialがIEV(Indian Embedded Value)という方式で、HDFC Standard等がMCEV(市場整合的EV)となっている。

ここで、IEV(Indian Embedded Value)というのは、インド・アクチュアリー会が作成しているアクチュアリー実務基準に基づいており、基本的には資産と負債の市場整合的な評価を行うMCEVと調和している方式である。

EVや新契約マージンは、会社の成長性や収益性を示す1つの指標となっている。これによれば、各社の新契約マージンは8%~24%の範囲にあり、引き続き新契約における高い収益性を確保している。また、EVについては、2014年度に大きく増加したのに対して、2015年度の増加率は低下したものの、プラスを確保し、会社の価値を着実に高めてきている。
インド生命保険会社のEV(2016年3月末)

6―まとめ

6―まとめ

ここまで、2015年度決算数値に基づいて、インドの生命保険会社の成長性・効率性・収益性・健全性等の状況について報告してきた。

インドの生命保険市場は、大きな潜在力を有し、今後さらなる成長が期待できる市場であるが、市場の変化に対応して、これまで、各種の保険監督規制の改革等が行われてきている。こうした環境下で、生命保険会社は、商品開発とチャネルの改革、リスク管理体制の充実等の課題に取り組み、経営効率化を進めてきている。外資出資規制の改正や再保険会社の規制緩和等を通じて、外資系保険会社の進出が促進されることで、さらなる生命保険市場の充実が図られ、競争が激化していくことが想定されている。

こうした中での、外資系保険会社を中心とした最近の動向について、3点触れておく。

1|外国資本による出資割合の引き上げ
基礎研レター「インドの生命保険市場(2)-昨今の保険監督規制を巡る状況はどのようになっているのかー」(2015.12.14)で述べたように、「外国資本による出資規制の緩和」が行われ、外国会社による直接投資の上限が26%から49%に引き上げられたが、これに伴い、実際に多くの会社が出資割合の引き上げを行ってきている。

このように、グローバルな保険会社によるインド市場への投資を促すことで、インド国内の保険に対する需要を増大させるとともに、さらなる競争を促進することを通じて、保険会社の効率性と商品開発力を向上させようとしている。今後ともこの効果がインドの生命保険市場にポジティブに働いてくることが期待されている。

2|合併・提携の動き
HDFC StandardとMax Lifeは合併して、インド最大の民間生命保険会社になる交渉を開始したことを公表している。主として、HDFC StandardはHDFC Bank 、Max LifeはAxis Bankを通じて、商品を販売しているが、両社の合併により、生命保険分野で最大規模の販売ネットワークを構築でき、商品ラインナップの拡充を図ることができることになる。

この例に代表されるように、競争激化の中で、国全体をカバーする保険会社として活動を展開していくために、合併により、販売チャネル、商品及びコスト面でのシナジーを働かせ、より一層の規模の拡大及び事業運営の効率化を目指していく動きが見られている。

今後も、特定の地域、顧客ベースあるいは高収益商品等のニッチ市場に焦点を当てていく戦略を採用するのでなければ、他の保険会社も、こうした合併や提携の動きを検討していくことが避けられない状況になってくることが考えられる。

ただし、単なる規模拡大のための合併や提携が新たな価値を生み出すとは限らないため、保険会社もいかに会社の価値を高めることができるかを考慮しながら、検討していく必要があることになる。

3|株式公開の動き
ICICI Prudential は、9月に IPO(新規株式公開)を行って、605億ルピーの資本調達を行っている。これは、インドの保険会社で最初のケースとなっている。

HDFC Standardも4月にIPOによる株式公開を公表していたが、Max Lifeとの合併協議の開始により、現在は保留された形になっている。現在計画されている方式での合併が実現すれば、HDFC Standardも上場会社となる。

IRDAIは、生命保険会社が株式市場を通じて資本を増強することを促してきており、今後もこうした動きが加速されていくことが想定されている。

このように、株式公開を通じて、保険会社は追加資本を獲得することで、さらなる成長に向けたモーメントを得ることができることになる。一方で、ディスクロージャーの充実を通じた経営の透明性の確保等が期待されていくことになる。

以上、インドの生命保険市場においては、最近、外資系保険会社を中心にM&A(合併と買収)やIPO等を通じて、資本の増強を図り、積極的な事業展開を行っていく動きが見られ、今後もこうした動きを通じて、市場がさらにダイナミックに変化していくことが想定されている。その成長性が高く、健全性を維持しつつ、一定の収益性が期待できる市場だからこそ、日本の保険会社も含めて、欧米の主要保険グループが、この市場に魅力を感じて注力してきている。

今後とも、その動向は極めて注目されることから、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年10月31日「基礎研レポート」)

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