コラム
2016年10月31日

雇用不安時代のコーポレートガバナンス-英国メイ首相 「従業員代表を取締役会に」

経済研究部 取締役 部長   宮垣 淳一

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英国のメイ首相が、従業員代表を企業の取締役会に加えることを提案している。年内に具体的な提案をまとめるとしており、企業寄りと思われている保守党が「保守党は労働者の党だ。(We are the party of workers)」とまで言い切っている。ブレグジットを選択した国民投票結果の背景には格差問題に対する国民の不満があり、少数の特権階級のための政治ではなく普通の労働者階級(ordinary working class)のための政治を目指すという。

高すぎる経営者報酬にもメスを入れたいようだ。当然ながら経済金融メディアからは冷ややかな評価を受けているが、英国発の企業統治改革であり注目に値する。

日本でも企業統治改革・強化が進んでいる。そこには二つの流れがある。一つは、アベノミクスにおける成長戦略としてのコーポレートガバナンス改革だ。米国のエージェンシー・コスト理論にもとづき、経営者は放っておけば株主の望む方向とは違う経営をしてしまうから、株主・投資家と企業経営者の対話が重要であるという。対話を充実させることでROEも向上し、株主価値も向上していくという考え方だ。

もう一つは、ESG投資におけるガバナンス強化だ。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国連責任投資原則に署名したことで、ESG投資に注目が集まっている。E(環境)、S(社会)、G(企業統治)投資とは、企業の財務情報だけでなく、サステナビリティーの観点からESG要素への企業の取り組みにも着目し投資を行っていくものだ。ここでのG(企業統治)は、コンプライアンス遵守などは当然のことであるが、企業を取り巻く多様なステークホルダーの意思を経営に反映できるガバナンスを確立できるかということになる。メイ首相の「従業員代表を取締役会へ」という提案も従業員というステークホルダーの意思を経営に反映していくという意味で、このESGの考え方に近い企業統治改革と言えるだろう。

米英で問題になっている格差は、富裕層に対する中間層の不満が大きい。一方で、日本の場合は、むしろ貧困層の拡大が大きな問題だろう。非正規雇用における低い報酬水準と劣悪な労働環境や貧困の連鎖を生む教育問題などが深刻だ。さらに今後は、AIの発達により、機械に仕事を奪われるという心配も出てきている。その程度はわからないが、雇用に大きな影響を与えていくことは、これまでのテクノロジーの発達と格差の関係を見ても明らかだろう。

貧困の連鎖や格差の拡大を起こさずに企業価値の増大を実現するコーポレートガバナンスの新たなあり方を探っていく必要があるのではなかろうか。それは、メイ首相が言うように、これまでのような英米流の株主価値至上主義ではないように思われる。周回遅れであった日本の企業統治も大きな変化が起きている。ROEに対する企業経営者の意識も高まっており、現実にROEも上昇してきた。ここからは、さらに多くのステークホルダーの意思を反映できる、よりサステナブルな企業統治のあり方を考えるべきではないか。
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経済研究部   取締役 部長

宮垣 淳一 (みやがき じゅんいち)

研究・専門分野
経済研究部統括

(2016年10月31日「研究員の眼」)

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