2016年10月27日

減価償却費を活用したJ-REITの内部成長率

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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また、2015年下期における減価償却費率は1.24%(長期平均1.25%)、減価償却資産の割合は38%、平均耐用年数は31年となり、最近5年間の数値は概ね安定している(図表―7)。
[図表-7] :減価償却費率(年率)、減価償却資産の割合、平均耐用年数
これを、アセットタイプ別9(オフィス、商業、住宅、物流)に比較すると、それぞれの資産特性を反映し水準が異なっている。過去5年平均の減価償却費率は高い順に、商業系REIT(1.6%)>物流系REIT(1.4%)>住宅系REIT(1.3%)>市場平均(1.25%)>オフィス系REIT(1.1%)が並ぶ(図表―8)。商業系REITは、減価償却資産の割合(41%)が大きく平均耐用年数(26年)も短いため減価償却費率が最も高くなっている。2番目に減価償却費率の大きい物流系REITは、郊外立地の物件が多いため減価償却資産の割合(50%)が大きく、住宅系REITは築浅の物件が多いため平均耐用年数(37年)が長いという特徴が見られる。また、オフィス系REITは都心立地の物件を多く保有するため減価償却資産の割合(34%)が小さく減価償却費率(1.1%)は最も低い値となっている。
[図表-8] :アセットタイプ別の減価償却費率、減価償却資産の割合、平均耐用年数(2011年~2015の平均値)
 
9 特定のアセット比率70%以上を基準に分類
 

3――減価償却費を活用した内部成長率

3――減価償却費を活用した内部成長率

最後に、不動産運用に必要な資本的支出を確認し、減価償却費を活用したJ-REITの内部成長率を試算する。資本的支出については、J-REITの運用実績及びエンジニアリングレポート10に記載された数値を用いる。
 
10 対象不動産の物的状況に関する調査報告書。J-REIT各社は不動産購入時やその後の運用において定期的に取得
不動産運用に必要な資本的支出
これまでの運用実績における減価償却費に対する資本的支出の割合(以下、CAPEX投資比率)は、年単位ではバラツキが見られるものの、累計値では28%の水準に収斂している(図表―9)。これは、各REITが資本的支出を一律ではなく、ポートフォリオ全体の減価償却費の積み上がりと個別不動産の管理状態を常にモニタリングし、金額にメリハリを付けて計画的に実行しているためだと思われる。
[図表-9] :減価償却費に対する資本的支出の割合(CAPEX還元率)
次に、エンジニアリングレポートから抜粋した「長期修繕の費用見積」11を用いて、将来必要な資本的支出を確認する。2015年下期の開示資料によると、減価償却費に対する「長期修繕の費用見積」は30%と推計された。なお、この数値には資本的支出と毎期費用計上する修繕費が含まれる。そこで、J-REITの運用実績から資本的支出と修繕費の比率を求めると「1:0.45」となり、この比率で按分したCAPEX投資比率は20%となった。実績ベースのCAPEX投資比率(28%)がエンジニアリングレポートベースの数値(20%)を上回る理由としては、(1)J-REITが実際には見積り額以上の資本的支出を積極的に行い資産価値の維持・向上に努めていること、(2)過去に取得したレポートの見積り額が時間の経過で古くなり必要額より過小である可能性が考えられる。
 
11 有価証券報告書で非開示の物件は一部推計値を用いた
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

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