2016年10月27日

減価償却費を活用したJ-REITの内部成長率

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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JREITの資産構成比率
続いて、決算データをもとにJ-REIT市場全体の資産構成を集計し、減価償却費のもとになる減価償却資産の割合を確認する。2015年下期(7月~12月期、対象49社)の資産額は13.5兆円、このうち、賃貸不動産(償却後)が12.6兆円(占率94%)、現金・預金が0.7兆円(5%)、投資証券ほかが0.1兆円(1%)である(図表―3)。J-REITが余剰資金を抱えることなく不動産投資に特化した運用の器であることが分かる。
[図表-3] :J-REIT市場全体の資産構成(2015年下期)
賃貸不動産12.6兆円の内訳は、建物が4.1兆円(占率33%)、建物附属設備など5が0.1兆円(1%)、土地が8.2兆円(64%)、借地権・地上権が0.2兆円(2%)である。この結果、減価償却資産(償却後)は4.2兆円、不動産に占める割合は34%で、その大部分が建物価額である。また、不動産の97%が建物と土地からなり、その比率は概ね1:2となっている。

こうした資産構成比率はこれまでも安定している。2007年以降、資産構成比率は概ね建物が30%、土地が60%、現金預金が5%で、3項目で全体の95%以上を占める(図表―4)。2007年から2015年までの8年間で資産額は6.9兆円から13.5兆円に倍増し、アセットタイプについては物流施設やホテル、ヘルスケア、底地など新しいタイプの物件が多く組み入れられた。また、既存物件については売却とリニューアル工事が実施されてポートフォリオの新陳代謝が進む。しかし、時代の経過とともに運用金額が増加しアセットタイプが多様化しても、市場全体でみた資産構成比率は変わらずに安定した収益を生み出す基盤となっている。
[図表-4] :資産構成比率の推移
J-REITの減価償却費の特徴
J-REITが採用する定額法6によると、減価償却費は「減価償却資産の取得価額×償却率(耐用年数の逆数)」で計算することができる。したがって、不動産取得価額に対する減価償却費は(以下、減価償却費率)は、減価償却資産の割合と耐用年数によって決まり、減価償却資産の割合が大きい(小さい)ほど、また耐用年数が短い(長い)ほど、減価償却費率は高くなる(低くなる) 。
不動産取得価額に対する減価償却費
例えば、東京と地方を比較した場合、地方に所在する不動産は土地価格が安く建物など減価償却資産の割合が大きくなるため減価償却費率は高くなる傾向がある(図表―5)。
[ 図表-5] :不動産取得価額に対する減価償却費(減価償却費率)
続いて、J-REIT市場全体の減価償却費を確認する(図表―6)。2011年以降、減価償却費は運用資産の拡大を背景に再び増加基調にあり、2015年下期は821億円となった。また、経常利益7(売却損益を除く)と減価償却費を合計した巡航ベースのキャッシュフローは2,519億円で、これに対する経常利益の割合(以下、ペイアウトレシオ:Payout Ratio)は67%、減価償却費の留保率(1-ペイアウトレシオ)は33%である。これまでのペイアウトレシオは60%から70%の範囲で動いている。業績好調で利益率の高まる局面では70%ラインに接近するのに対して、業績悪化で利益率の低下する局面では60%前半に低下している。2012年以降、賃貸市況の回復や借入コストの低減によって利益率が回復しペイアウトレシオは上昇傾向にある。また、米国REIT市場におけるペイアウトレシオの長期平均は約71%である8。減価償却資産の割合が高く相対的にペイアウトレシオの低いJ-REITは、米国など国内外の水準を参考に利益超過分配によって分配金額を増やす検討をしても良いのではないだろうか。
[図表-6] :減価償却費とペイアウトレシオの推移
 
6 H19年3月31日以前に取得した建物などの「旧定額法」では、「減価償却限度額=(取得価額-残存価額)×償却率」(残存価額は取得価額の10%)
7 特別損失などの影響を除くため当期純利益ではなく経常利益を使用
8 NAREIT(全米不動産投資信託協会)資料による
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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