2016年10月27日

減価償却費を活用したJ-REITの内部成長率

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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1――注目される減価償却費の使い道

J-REIT(不動産投資信託)市場は今年9月に創設15周年を迎えた。この間、リーマン・ショックなど厳しい金融収縮下において機能不全に陥る時期もあったが、環境の変化に適応しながら着実に成長し、上場数は56社・運用資産額は約15兆円の規模に拡大している(9月末時点)。また、市場参加者と運用不動産の裾野が広がるなか、これまで画一的であった投資家への利益分配にも多様化の動きが見られる。

J-REITは投資家から集めた資金を賃貸不動産に投資し、運用収益のほぼ全額を分配することで法人税免除の優遇措置を受ける1。そのため、従前は当期純利益と分配金が概ね一致する、すなわち配当性向(当期純利益に対する分配金の割合)100%の商品特性を持っていた。しかし、最近は両者が乖離するケースが増えている。例えば、直近6ケ月(2016年2月期~7月期)の決算をみると、当期純利益と分配金が±5%以上乖離した事例は全体の26%(14社/53社)に達する。

この理由の1つに2、減価償却費の一部を継続的に利益に上乗せして分配する「利益超過分配」の採用を挙げることができる。利益超過分配は、2012年12月に上場したGLP投資法人がJ-REITで初めて導入した分配方針で、会計上の利益ではなくキャッシュフローを基準に分配金を決める。GLP投資法人によると、投資対象である先進的物流施設は、(1)オフィスビルなど他のアセットタイプと比べて減価償却費の割合が大きいこと、(2)資本的支出(CAPEX:Capital Expenditure)が少額かつ将来の見積りが容易であることから、原則、減価償却費の30%を継続的に分配するとしている。2015年8月期の決算資料によると、減価償却費2,361百万円のうち、資本的支出は404百万円(比率17%)、利益超過分配は707百万円(比率30%)、手元に残る資金は1,249百万円(比率53%)、配当性向は115%であった(図表―1)。現在、同様の分配方針を採用するJ-REITは上場56社のうち7社となっている。

さらに、一時的な損失に対応するため減価償却費を活用する事例も登場した。イオンリート投資法人は、2016年7月期に熊本地震の被害によって多額の損失を計上し赤字決算となったが、減価償却費の60%3を利益超過分配することで無配転落を回避した。減価償却費が予期せぬ損失に対するクッションの役割を果たして分配金維持の原資になったと言える。

一方、制度上、利益を全額分配するJ-REIT にとって現金支出を伴わない費用項目の減価償却費は貴重な内部財源である。不動産は経年を重ねるごとに物理的機能や市場競争力が低下してしまう。そのため、減価償却費は分配せずにポートフォリオに再投資するほうが投資主利益に適うのではないかとの指摘がある。また、現在の運用資産額(15兆円)に対応する減価償却費は年間約1,900億円、今後5年間で約1兆円の内部資金が生じる見込みで、その使い道についても注目が集まる。

そこで、本稿ではまず、J-REITの減価償却費の実態について確認する。次に、不動産運用に必要な資本的支出の金額を確認したのち、一定の前提条件のもと減価償却費を活用したJ-REITの内部成長率を試算したい。
[図表-1] :GLP投資法人による利益超過分配の内容
 
1 支払い配当の損金算入要件は「配当可能利益の90%超の配当を行っていること」だが、実際は100%を分配
2 その他の理由に、合併により生じた負のれんの取り崩しや課税の特例措置による不動産譲渡益の内部留保並びにその取り崩しなどがある
3 投信協会規則において利益超過分配できる減価償却費の上限は60%
 

2――J-REITの減価償却費の実態

2――J-REITの減価償却費の実態

最初に、J-REITの不動産運用と会計処理について整理する。J-REITが不動産を取得すると、取得に要した付随費用と合わせた取得価額をバランスシートの固定資産に計上する。このうち、建物や建物附属設備などは使用または時間の経過により価値が減少する減価償却資産、土地などは価値が減少しない非減価償却資産として扱う。減価償却資産については定額法4の償却ルールに基づいて耐用年数にわたり取得原価を毎期費用配分する。また、保有期間における不動産への支出金額のうち、不動産の価値を高め、又はその耐久性を増すことに対応する金額は「資本的支出」として資産計上し、通常の維持管理や原状回復に対応する金額は「修繕費」として費用計上する。

こうした不動産運用におけるバランスシートの変動を「図表―2」に示した。ここでは、耐用年数50年(償却率2%)、利回り5%の賃貸不動産を取得価額100(建物50、土地50)で購入し、10年間の運用を想定する(便宜上、期中の利益分配と資本的支出はなし)。10年間で稼いだ不動産収益50(不動産100×利回り5%×10年)から減価償却費10(建物50×償却率2%×10年)を引いた純利益は40で、10年後の資産勘定は現金50、建物40、土地50となる。ここで、一般事業会社であれば現金50の使途(株主還元を含む)を自由に決めることができる。これに対して、J-REITは毎期利益を分配するため、利益分配後は減価償却費に相当する現金10のみが手元に残ることになる。
[図表-2] :不動産運用におけるバランスシートの変動(10年運用)
 
4 19年3月末以前に取得した建物は定率法の採用も可であった
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

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