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ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由
金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
2――ヘッジコストが上昇している理由
2013年の特徴的な出来事として、日本では2013年4月の量的・質的金融緩和政策の導入、米国では2013年5月のバーナンキショックを皮切りに量的緩和の縮小(テーパリング)が始まったことが挙げられる。つまり、日米で金融政策について逆方向の政策がとられるようになったということである。よって、日本において相対的に金利低下が生じたため内外金利差が拡大してヘッジコストが上昇し、それに加えて、米国短期資金市場における金融引き締め予想に起因して米ドル資金の提供サイドのストレスが高まったことで、通貨スワップ市場や為替スワップ市場にもその影響が伝播し、内外金利差の拡大だけではなく追加的なコストとしても上乗せされるようになったものと考えられる。
この点について、具体的なデータで確認してみよう。短期資金市場のストレスについては、3ヶ月LIBOR/OISスプレッド(3ヶ月LIBORとOvernight Index Swap(OIS)2の差分)で測定する方法が知られている。このスプレッドが拡大傾向にあると短期資金市場のストレスが高まっていることになる。図表3にあるとおり、2012年後半より、米ドルの3ヶ月LIBOR/OISスプレッドは円の3ヶ月LIBOR/OISスプレッドよりも相対的に上昇傾向にあって、米国の短期資金市場のストレスが日本と比較して高まっている。このため内外金利差の拡大が生じているのだが、実はそれだけではなく、内外金利差以外の要因にも影響を及ぼしている。バーナンキショック以降にあたる2013年5月から直近の2016年9月までの月末データについて、米ドルの3ヶ月LIBOR/OISスプレッドと円の3ヶ月LIBOR/OISスプレッドの差分(3ヶ月LIBOR/OISスプレッド差分)を縦軸に、ヘッジコストの内外金利差以外の要因を横軸にとった散布図(図表4)を見ると、一定の連動性を持って推移していたことが分かる。
2つ目は米国におけるMMF規制の影響である。2015年後半からプライムMMFの残高が急激に減少している(図表5)が、この残高減少は米国においてプライムMMFの資金の引き出しに一定の制約を課すなどのMMF規制の変更があったことに起因している3。プライムMMFは米国債以外の資産、例えば米ドルCDや米ドルCPといった短期金融市場の商品に投資するファンドであり、MMF規制の変更に伴う残高減少により、金融機関は米ドルCDや米ドルCPを通じた短期資金の調達の受け皿縮小に直面することになった。その結果、米国短期資金市場においてストレスが高まった状態が継続しているものと思われる。
以上より、金融政策や金融規制による複合的な要因から、米国短期資金市場においてストレスが相対的に高まったことで、内外金利差以外の要因による追加的コストについても徴求されるようになったと考えられる。よって、米国短期資金市場のストレスが相対的に高まると、内外金利差の拡大と内外金利差以外の要因への影響が織り重なってヘッジコストの上昇に2重のインパクトを及ぼすことになり、非常に厄介な問題である。
1 内外金利差以外の要因である「通貨スワップや為替スワップの市場環境によるヘッジコストへの影響」に関する議論については、「通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響」(ニッセイ基礎研究所)などを参照されたい。
2 無担保コールO/Nレート(日本)やFFレート(米国)と一定期間において交換するときの固定金利のこと。OISはデリバティブ市場では無リスク金利と考えられている。
3 MMF規制の変更は2016年10月14日に施行されている。
03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
(2016年10月25日「基礎研レター」)
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