2016年10月21日

ESG投資と統合思考のために-「サステナビリティのメガトレンド」を背景にビジネス・パラダイムの大転換

川村 雅彦

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(2)丁寧に説明すべき統合思考の8項目
IIRCは統合報告書に記載すべき8つの「内容要素」を提示したが、筆者はこれを「社長が投資家に対して統合報告書で応えるべき8つの問」と読み替えている(図表8参照)。つまり、投資家がわかるようにそれぞれ丁寧に記述することが肝要である。以下に、順を追って説明する。

1)まずは、自社のミッションとビジョンの再確認
 私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。(ローソン

2)自社事業の外部環境の構造変化(メガトレンド)を予測
  • 政治・経済の状況
  • 人口増加・減少と少子高齢化(人口構造)
  • 地球環境問題(気候変動、生物多様性)からの制約、自然災害
  • 資源・エネルギー問題
  • 人権への配慮
  • 情報化社会・情報セキュリティ
  • 市民生活(社会保障費の増大、都市基盤の劣化)など
     
3)自社の強み・弱みの検証と発見(SWOT分析など)
  • メガトレンドのなかで、自社を客観的に見る
     
4)自社のリスクとチャンスの特定(業種により異なる)
  • リスク特定、リスク・シナリオ分析 
  • 社会的課題・顧客ニーズ分析と対応策
     
5)中長期経営戦略の策定と資源配分の計画
  • ミッションとビジョンに対応する戦略目標の策定
  • 戦略目標の達成に向けた経営資源配置の計画
     
6)ビジネスモデルの構築
  • 戦略目標を実現するのがビジネスモデルであり、長期的価値を高めていくプロセスそのもの
     
7)ガバナンスの構築
  • 戦略目標達成のための経営者の能力醸成かつ監督
  • 最終的にはESG・CSRを含めて経営の意思決定
     
8)実績と将来展望
  • 戦略遂行上の課題・不確実性の特定とその影響
     
(3)逆算経営の連立方程式 (メガトレンド-ビジネス戦略-CSR戦略の三位一体)

【Sustainability Context (持続可能性の文脈) 原則】
統合思考に基づく中長期戦略を策定するには、例えば10年後の“CSR経営のめざす姿”を考える必要がある。つまり、「2025年CSR長期ビジョン」を設定するのである。ただし、予測される2025年時点のメガトレンド、すなわち世界と日本の社会経済構造や社会的課題を踏まえて、「CSR長期ビジョン」は本業の「長期経営ビジョン」と連動したものでなければならない。

なぜならば、時代潮流の大きな変化の中で、企業が経済・環境・社会の将来動向にどうかかわろうとしているのかが問われているからである。これは今後予想される地球・地域レベルでの制約の中で、サステナビリティというコンセプトと関連付けて自社の戦略を考えることでもある。このメガトレンドを踏まえた経営戦略とCSR戦略との三位一体がGRI・G4にある『持続可能性の文脈(Sustainability Context)原則』に他ならず、それぞれの実行計画である「中期経営計画」(中計)と「CSR中期計画」(CSR中計)も連動することになる(図表10)。
図表10:10年後を目標とする経営戦略とCSR戦略の連動(例示)
【メガトレンドを予測する】
最近になって経営戦略として10年を超える「長期経営ビジョン」を策定・公表する企業が増えてきた。事業環境が不透明で変化の激しい時代だからこそ、企業が自らの存在意義を問い直し(自社の再定義)、めざすべき将来像を描いて、そこに到達するための経路を投資家を含むステークホルダーに示すことが重要である。そのためには、自社の事業特性を踏まえて事業環境としてのメガトレンドの予測が不可欠となる。製造業であれば、例えば、以下のようなことが考えられる。
  • 資源エネルギー問題
    ・先進国での需要漸減、新興国での需要急増
    ・貧困地域の生命維持に必要な資源の確保と供給
     
  • 地球環境への配慮
    ・地球温暖化の防止と生物多様性の維持
    ・持続可能な資源有効活用
    ・水ストレスの解消
     
  • 自然災害
    ・気候変動リスクと適応
    ・大規模な自然災害に対応した事業継続
     
  • 人口増加と高齢化
    ・先進国の少子高齢化、新興国の人口増加
    ・医療・健康・教育の充実、社会福祉制度の充実
     
  • 人権への配慮
    ・サプライチェーンにおける人権・労働環境の改善
    ・紛争地域における人権尊重の促進
     
  • 情報化社会
    ・大容量データへの対応、情報セキュリティの確保
    ・デジタルデバイドの防止
 
“CSR経営のめざす姿”すなわち「CSR長期ビジョン」の設定に際しても、長期的な視点に立った社会的課題を前提とすべきであるが、具体的に「CSR長期ビジョン」とはどのようなものか。基本的には「本業を通じて地球規模で環境と社会の持続可能な発展へ貢献する」となろうが、これでは抽象的すぎる。企業の業種特性や海外戦略あるいはCSR活動の現状によって異なるが、自社の持続的成長をめざす経営戦略と連動させつつ考える必要がある。CSVについても検討する必要があるが、これはビジネスとして「長期経営ビジョン」で検討すべきことである。
 

おわりに:「2050年の世界」はどのようなものか?

おわりに:「2050年の世界」はどのようなものか?

今後の長期的な世界のメガトレンドを知るためには、世界の識者は2050年までをどのように予想しているかを理解しておくことは効果的である。そこで筆者は、以下のような著作を熟読中であり、読破した暁には全体像を整理・分析し、改めてレポートしたいと考えている。
 
「シフト 2035年、米国最高情報機関の予測」M・バロウズ著2015年
「2052 今後40年のグローバル予測」ヨルゲン・ランダース著2013年
「2030年 世界はこう変わる」米国国家情報会議著2013年
「2050年の世界」ローレンス・スミス著2013年
「日本企業は何で食っていくのか」伊丹敬之著2013年
「ウェザー・オブ・ザ・フューチャー 気候変動は世界をどう変えるか」ハイディ カレン著2011年
「プランB エコ・エコノミーをめざして」レスター・ブラウン2004年著
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川村 雅彦

研究・専門分野

(2016年10月21日「基礎研レポート」)

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