2016年10月21日

ESG投資と統合思考のために-「サステナビリティのメガトレンド」を背景にビジネス・パラダイムの大転換

川村 雅彦

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はじめに:2015年、人類文明は「分水嶺」を越えた

【サステナビリティのメガトレンド ⇒ 変わる競争軸】
2010年代に入って、長期視点から社会的課題を解決するために、グローバル・ローカルレベルで社会経済の枠組が変わり始めた(図表1)。これを「サステナビリティのメガトレンド」と呼ぶが、企業の長期戦略やビジネスモデルに構造的な変化をもたらすことは明らかである。つまり、“競争軸”が大きく変わるのである。実際、このことに気付いた企業から変わり始めている
図表1:「サステナビリティのメガトレンド」にかかわる近年の動き
【2015年のパラダイム大転換】
図表1で2015年に多くが集中していることから分かるように、このサステナビリティのメガトレンドのなかで、2015年に人類文明は「分水嶺」を越えたと言われる。方向転換を意味するピボッタル・イヤーとも称される。つまり、この2015年を境に人類文明のパラダイムが大きく転換したのである。18世紀後半の産業革命以降の化石燃料に依存した文明のパラダイムは、”地球は無限”という錯覚に基づく『限りない成長』であった。しかし、分水嶺を越えた現在、”地球は有限”という現実に基づく『持続可能な発展』に変わったのである。

2015年のパラダイム大転換を象徴する世界的な動きが三つある。うち二つは国連によるもので、一つは2030年の地球社会のめざすべき姿を示す「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」の採択である。もう一つは、COP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)における21世紀後半にCO2排出量の実質ゼロをめざす「パリ協定(Paris Agreement)」の合意である。三つめは、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の4月声明を受けて、FSB (金融安定理事会)が金融機関に対する気候変動リスクの情報開示基準を検討する「気候関連財務ディスクロージャー・タスクフォース(TCFD)」を設置したことである。

一方、日本でも2015年にパラダイム大転換を象徴する二つの出来事があった。すなわち、ESG投資を推進する「国連責任投資原則」へのGPIFの署名とトヨタの“生き残り戦略”ともいえる「トヨタ環境ビジョン2050」の公表である。
 
【これまでの常識はこれからの非常識
これらの動きを俯瞰すれば、いずれも21世紀の地球社会をデザインする基本思想に通じるものであり、あらゆる主体にとってのキーワードは「サステナビリティ」である。これを企業戦略の観点からみると、これまでの20世紀型のビジネス常識や成功体験は通用せず、これからはむしろ経営のリスク要因となり、企業価値を損ない企業の存続さえ危うくする可能性もでてきた。これはビジネス・パラダイムの大転換に他ならない。

他方、機関投資家については、従来、資産運用に関する受託者責任(Fiduciary Duty)は狭義に理解され、投資先のESGに配慮することはリターン阻害要因として“違反”とされてきた。しかし、2006年に受託者責任の範囲内でのESG配慮を謳う「国連責任投資原則」(UNPRI)が制定されると、世界の機関投資家が趣旨に賛同して署名し、現在1,576団体となった。さらに2015年には米国で年金運用を規制する「エリサ法」(従業員退職所得保障法)に関して、「ESG要因は運用に当って考慮すべき適切な要素となる」という新しい解釈が発表された。中長期視点から、ESGへの配慮が受託者責任に“合致”することになったのである。

本稿では、このような問題意識のもと、サステナビリティにかかわる2015年の海外と国内の主要な動きについて、ビジネス・パラダイムの大転換の観点から考察する。そのうえで、投資家と企業の関係の観点から「ESG投資」と「統合思考」についての筆者の論考を述べる。

なお、上述した世界の潮流のなかで、サステナビリティにかかわる概念やイニシアチブが数多く登場しているので、まずはそれらの位置関係を四つの観点から整理しておきたい(図表2)。
図表2:サステナビリティにかかわる概念やイニシアチブの位置関係
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川村 雅彦

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