2016年10月20日

「家派」女性の虚弱化予防~60代女性の「健康行動の始動・継続」に関する調査研究から

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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3――「高齢者の健康行動の始動・継続に関する研究」の結果

1|60代女性の「家派」「外派」の出現状況(スクリーニング段階からの知見)
WEBアンケート調査は、三大都市近郊地域在住4の60-69歳の女性を対象に実施した5。委託した調査会社のモニターの中から、事前のスクリーニングを行って私たちが独自に定義づけた「家派」「外派」の女性をそれぞれ1500名(計3000名)選出することを行った。すると、このスクリーニングの段階で貴重な情報を得ることができた。「家派」「外派」の定義の説明と合わせて紹介する。

家派と外派については、図表2にある3つの設問の回答から区分することにした。Q1で「普段、家派ですごすのと外派ですごすのと、どちらが好きか」を尋ね、Q2で「外出の頻度」を聞く。この時点で、家を中心としたライフスタイルかそうでないかを特定する(=完全家派と完全外派を抽出する)。しかし、家ですごすことを好みながらも仕事などの関係で外出が多い人も存在する(逆もあり)。そのことを想定してQ3で70歳以降に望むライフスタイルを尋ねている(=準家派と準外派と別に定義づけた)。

事前のスクリーニングにおいては、8893名にサンプリングし、6589名から回答を得たが(有効回答回収率74.1%)、まずQ1の段階で約8割(78.1%)の人が「家」ですごすことが好きと答えている。男性や他の年代の女性との比較ができないが、60代女性の8割は「家」ですごすことを好んでいるという結果は、住空間の重要性を再認するような結果であった。
図表2:「家派」・「外派」の抽出におけるスクリーニング構造(結果)
「家派」「外派」の話に戻ると、Q1~3を経て最終的に、完全家派・完全外派・それ以外(準家派・準外派)に分けてその出現状況を整理すると、次のような結果となった。完全家派は3334名(回答者全体の50.6%)、完全外派:824名(回答者全体の12.5%)、それ以外(準家派と準外派の合計):2431名(回答者全体の36.9%)となった。最終的に都市近郊地域在住の60代女性の実態は、完全家派「5割」、完全外派「1割」、それ以外「4割」ということである。この数字は60代女性の実態を理解する上で貴重な情報と受け止めている。以上のスクリーニングを経て、本調査に向けては、家派については1500名への絞り込みを行い1569名を選出し、外派については完全外派が1500名に満たなかったため準外派を加えて1572名を選出した(最終的な有効回答数)。ただし、本稿で以降に紹介する分析結果は、タイプの違いを鮮明にすることを意図して、完全家派1569名と完全外派697名を対象にしたものだけにした。
図表3:スクリーニングから本調査に向けた対象者の調整結果
 
4 東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県/愛知県/大阪府・京都府・兵庫県
5 調査実施期間:(1)スクリーニング 2013年8月2-9日(9日間)、(2)本調査 2013年8月9-12日(3日間)
2|「完全家派」と「完全外派」の人の特徴
では、完全家派と完全外派の人はどのような人たちなのだろうか。参考情報にはなるが気になるところである。本調査(WEBアンケート調査)では、回答者の属性、社会的役割や社会活動の状況、生活習慣や健康状態、健康に関する関心、運動経験や運動に対する態度、性格特性や価値観、運動を始めるおよび継続するためのドライバに対する評価の6領域について、22の質問群、全部で139項目の質問を行っている。その結果を踏まえて、完全家派と完全外派の人の違いを表す特徴としては次のようなことが挙げられた(図表4~6にもとづく説明)。

(1) 社会的役割、社会活動の違い
  • 「外派」は「家派」に比べて収入のある仕事をしている人が多く(家派23%、外派41%)、仕事の頻度も高く、仕事以外の社会活動(自治会・町内会など、趣味や習い事、ボランティア活動)をしている人の割合も多く活動頻度も高かった。
     
  • 友人や知人との会話は家派も外派も8割以上が「ある」と回答していたが、比較すると外派の方が多かった。
     
  • また、外派のほうが自由になるお金がある人が多く、自由になる時間は少なく、自宅にいる時間は少ない、という差も有意であった。
     
以上から、「家派」に比べて「外派」志向の人は社会的に活発で、社会的役割を持っている人が多く、仕事等をしていることからお金にはある程度自由があるが、自由な時間は相対的に少なく自宅外にいる時間の多い生活を送っていると言える。逆にいうと、「家派」は仕事を含む社会的な活動が相対的に不活発で、自由な時間が多く、またその多くを自宅で過ごしている様子がみてとれた。

(2) 健康に関連する意識、態度や行動の違い
  • 健康に寄与するとされる生活習慣のうち、「外派」は「家派」に比べて飲酒習慣を持つ人が1割ほど多かった。
     
  • 一方で定期検診を受けていない人は「外派」は32%、「家派」は44%と10%近い差があった。
     
  • 健康状態に関する評価を比べると、主観的健康状態は「家派」のほうが低かった。
     
  • 健康への関心はおおむね「家派」に比べて「外派」が高く、健康に気をつけている、健康情報に関心がある、実際に血圧を定期的に測っている、といった点で有意な差がみられた。また、具体的な健康ニーズについても、ほぼすべての項目で「外派」が高かった。
     
以上から、「家派」と「外派」で実際の健康状態には差はないが、「家派」に比べて「外派」の人は自身の健康や美容に関心が高く、一方の「家派」はそれほど関心が高くなく、測定等もあまり行わず、定期健診の受診率も低いことがわかった。
図表4:「完全家派」と「完全外派」の比較結果(1)
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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