2016年10月20日

社会保険料の帰着に関する先行研究や非正規雇用労働者の増加に関する考察

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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■要旨
  • 本稿では社会保険料の事業主負担が非正規雇用増加に与える影響について、既存のデータや先行研究を中心に紹介した。そして、韓国労働研究院の「事業体パネル調査」(Workplace Panel Survey)を用いて、企業における非正規労働者の決定要因に関する簡単な分析を行った。
     
  • 企業は増え続ける社会保険料に対する負担を回避する目的で、社会保険料に対する事業主負担分の労働者の賃金への転嫁、社会保険が適用されない非正規雇用労働者の雇用、既存の正規労働者に更なる労働時間の付与や正規社員の新規採用の縮小、パート社員の一週間の労働時間の短縮などの対策を実施している。その影響なのか日本における非正規労働者の割合は止まることを知らず増え続けている。
     
  • 本文で行われたシフト・シェア分析でも非正規労働者の増加は、過去に比べて供給要因(特にパート)のシェアが大きくなったものの、まだ供給要因より需要要因が強いという結果が出ている。
     
  • パネル分析からは企業規模が大きいほど、そして正規労働者の平均最終学歴が高いほど非正規労働者の割合が高いという結果が出た。最近の大学進学率の上昇は就職先に対する卒業生の目線を引き上げて、ミスマッチや不安定雇用が広がる恐れがある。
     
  • 企業に対する社会保険料に対する負担増加は労働者の賃金や雇用量に帰着される可能性が高い。最近、社会保険料が適用されない短時間労働者などの非正規労働者が増加することもその要因の一つかも知れない。政府は保険料の適用対象者を拡大することだけではなく、保険料の帰着問題も考慮し、労働者がより安心な生活ができるように注意を払う必要がある。

■目次

1――はじめに
2――社会保険料の帰着に関する先行研究の考察
3――社会保険料の雇用への帰着に関する考察(労働の需要曲線と供給曲線を用いて)
4――非正規雇用労働者の増加要因に関する分析
  1 | シフト・シェア分析による要因分解
  2 | 韓国労働研究院の「事業体パネル調査」を用いた分析
5――おわりに
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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