2016年10月20日

社会保険料の帰着に関する先行研究や非正規雇用労働者の増加に関する考察

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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4――非正規雇用労働者の増加要因に関する分析

1 | シフト・シェア分析による要因分解
非正規労働の増加(トレンド)が、非正規という就業形態を望む労働者の増加によってもたらされているのか(供給要因)、それとも経済構造の変化による企業の採用や人材活用の変化、社会保険料などの人件費の削減(需要要因)によるものなのか、そのどちらの要因がトレンドを説明する主要なものなのかをみるために、本節ではシフト・シェア分析を使って要因分析を行った。
 
まず簡単にシフト・シェア分析を説明したい。

 

上の数式は、t期からt+1期の非正規雇用労働者の増減率を、ふたつの要因に分解したものである。最初の項は、各年齢別・性別の非正規雇用労働者比率をt期に固定し、雇用者の性別・年齢階層別の構成比がt期からt+1期のあいだに変化した場合の非正規雇用労働者の変化率を計算したものである。非正規就労の選好が強い(たとえば学生や既婚女性など)性・年齢階層が、t期とt+1期で増加していれば、この項はプラスとなり、減少していればマイナスとなる。ここではこれを供給要因に起因する変化ととらえる。

第二項目は、労働者の性別年齢階層別の構成比をt期に固定し、非正規比率のみがt期とt+1期のあいだで変化した場合の非正規雇用労働者の変化率を計算している。同じ性・年齢階層内での非正規比率の変化は、採用側(企業)の変化に依存すると考え、これを需要要因としている。最後の項は、交差項である。

図表7は、以上にのべた供給要因と需要要因が全体の非正規雇用労働者の変化率に、どれだけ貢献しているのか、その寄与率をみたものである。総務省の『就業構造基本調査』をもとに、非正規全体、パート・アルバイトの合計、ならびに、アルバイト労働者、パートタイム労働者という4つのグループについて、(1)92年から02年と、(2)03年から13年のそれぞれの期間について、変化率を要因分解した。
図表7 日本におけるパート/アルバイト労働者増加の要因分解結果
これをみると、日本の92年から2002年では97.2%、03年から13年では、非正規雇用労働者の増加の68.6%が、企業の採用方針や人材育成の変化による需要要因によって説明されることがわかる。

さらに、パート・アルバイトをパートとアルバイトに分けて要因分解をすると、パートの場合、92年から02年では、需要要因が増加の60.3%を説明するが、03年から13年にかけては、需要要因と供給要因の比重が逆転して、供給要因の説明力が72.0%で需要要因の19.9%を上回っている。非正規労働が男性にも広がったことが、第2の稼ぎ手である妻の就業率を高め、それがここに反映されている可能性もある。

他方、アルバイトについてみると、2期間ともに需要要因がすべての変化を説明している。とくに03年から13年にかけては、説明力が強まっている。大沢・金(2010)は、90年代に進展した労働力の非正規化によって、若者の労働市場が大きく変容し、雇用の入り口における正社員としての就職口が狭まっていることが原因であると説明している。
 
2 | 韓国労働研究院の「事業体パネル調査」を用いた分析
ここでは、韓国労働研究院の「事業体パネル調査」(Workplace Panel Survey)を用いて、企業における非正規労働者の決定要因に関する簡単な分析を行った。「事業体パネル調査」は、韓国企業における人的資源の実態や労働者の人的資本の蓄積過程に関する情報のみならず、企業の財務データが含まれており、従業員の多様性が企業の成果に与える影響を分析するのに有用である。

図表8は、「事業体パネル調査」を利用してどういう企業で非正規労働者の割合が高いのかを年度別とプーリングしたデータで回帰分析した結果である。分析の結果、女性雇用率が高い企業で非正規職の割合が高いという結果が出ており、統計的に有意であった。一方、女性管理職比率(課長以上)は全体的に正の結果が出たものの、統計的に有意な結果は出なかった。製造業は製造業以外の業種に比べて非正規労働者の割合が高く、労働組合がある企業ほど非正規労働者の割合が低いという結果となった。企業規模別には企業規模が大きくなるほど非正規労働者の割合が高い傾向がみられた。従業員の教育水準で見ると、正規労働者の平均最終学歴が高い企業ほど非正規労働者の割合が高く、統計的にも有意であった。
図表8 非正規職比率の決定要因(回帰分析)
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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