2016年10月20日

社会保険料の帰着に関する先行研究や非正規雇用労働者の増加に関する考察

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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島崎(2011)は、今まで社会保険が適用されていなかった労働者に社会保険が適用されるケースを例として説明しながら、社会保険料の事業主負担の帰着は労働需要と労働供給の賃金弾力性の大小にもっぱら依存すると主張している。図表4は、一般的な労働市場に新たに社会保険料の負担が追加されたケースである。社会保険料の負担により、企業が労働者を雇う際の一人当たり人件費()は既存の手取り賃金()のみから、手取り賃金()+社会保険料(T)に変わることになる。社会保険料(T)の追加により一人当たり人件費が高くなったので、企業の雇用量はからに低下する。また、社会保険料に対する負担は労使折半であるので、労働者においても賃金に社会保険料が加わると、手取りの賃金が減ることになる。つまり、企業の人件費は増加(線分AD)する一方、労働者の賃金は低下(線分BD)し、雇用量は減少(線分CD)する。

社会保険料に対する実質的な事業主負担割合は、線分AD(企業負担分)/線分AB(全体増加分)に表すことができ、線分ABに比べて線分ADが大きければ、社会保険料の事業主負担が労働者負担に比べて大きいことを意味し、逆に線分ADが小さければ労働者負担が大きいことを意味する。従って、実質的な負担比率を決めるのは労働需要曲線と労働供給曲線の傾き(賃金弾力性)である。図表5は、労働需要の賃金弾力性が高い(事業主側の負担が小さく、労働者側の負担が大きい)場合を、図表6は、労働供給の賃金弾力性が高い(事業主側の負担が大きく、労働者側の負担が小さい)場合を示している。但し、図表2からも分かるように非正規雇用労働者に社会保険が適用されない場合には、事業主の社会保険料に対する負担は減るので、事業主は労働者の人件費を以下に維持しながら、社会保険が適用される以前の雇用量を維持することができるだろう。
図表4 賃金と雇用量の決定/図表5 賃金と雇用量の決定(労働需要の賃金弾力性が高い場合)
図表6 賃金と雇用量の決定(労働供給の賃金弾力性が高い場合)
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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