2016年10月19日

「130万円の壁」を巡る誤解-2016年10月からの適用要件拡大の意味を正しく理解する

松浦 民恵

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3――社会保険の適用が年収(106万円)で判断されるという誤解

被扶養者枠は年収によって判断されるが、適用要件については、もともと賃金水準は判断基準に含まれていなかった(所定労働時間・日数が3/4以上であれば基本的に適用)。改正により、所定労働時間・日数が3/4未満であっても、「週20時間以上、月額賃金8.8万円以上」等の要件に合致すれば、社会保険が適用されることとなった。

被扶養者枠の判断基準と混同して、適用要件の月額賃金8.8万円も年収ベースで判断されるのではないかと誤解されがちであるが、適用要件の判断の拠り所となる「8.8万円以上」はあくまでも月収(月額賃金)であり、年収ではない。月額賃金8.8万円以上の社員が社会保険を適用され、結果として年収が106万円未満となったとしても、税金のように還付されることはなく、既に支払った社会保険料は戻ってこない。
 

4――社会保険の適用を判断する月額賃金に、残業代・通勤手当・賞与も含まれるという誤解

4――社会保険の適用を判断する月額賃金に、残業代・通勤手当・賞与も含まれるという誤解

社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額には残業代や通勤手当が含まれる8。また、被扶養者枠の判断基準についても、基本的には前年(1月~12月)の収入を証明するものを求められることが多いので、残業代・通勤手当、さらには賞与が含まれることになる。

しかしながら、改正によって拡大された適用要件に合致するかどうかを判断する月額賃金は、残業代・通勤手当・賞与を含まない「所定内の賃金」であり、雇用契約書等に記載されている予め決まった額が基準となる。あくまでも社会保険を適用すべきかどうかを判断するためのものであることから、わかりやすさ、明確さが重視されたと考えられる。
 
社会保険の被保険者区分の判断は、今回の改正でより複雑になっており、前述したように正しい理解が十分に広がっていない懸念がある。しかしながら、社員が自分自身の働き方を選択するうえで、企業が法令を遵守しながら社員の労働条件を検討するうえで、さらには女性の就業の観点から社会保険の仕組みについて議論していくうえでも、制度の正しい理解は不可欠である。本稿がその一助となれば幸いである。
 
8 賞与は標準報酬月額に基本的には含まれないが、年4回以上支払われる場合には含まれる。
【参考URL】
厚生労働省「平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がります!(社会保険の適用拡大)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/2810tekiyoukakudai/
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松浦 民恵

研究・専門分野

(2016年10月19日「基礎研レター」)

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