2016年10月19日

通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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加えて、2015年の後半からプライムMMFの残高が急激に減少している(図表11)。この残高減少は、米国においてプライムMMFの資金の引き出しに一定の制約を課すなどのMMF規制の変更があったことに起因している。プライムMMFは米国債以外の資産、例えば米ドルCDや米ドルCPを含むファンドであり、MMF規制の変更に伴う残高減少により、金融機関は米ドルCDや米ドルCPを通じた資金調達の受け皿の縮小に直面することになった。その結果、日本も含めて世界中の金融機関がこれまで米ドルCDや米ドルCPを利用して調達していた資金分についても、通貨スワップや為替スワップの利用した調達にシフトせざるを得なくなり、米ドル3ヶ月LIBORの貸出スタンスに関するストレスを高める方向に寄与したと指摘されている。このことは、2016年初めから生じているスワップ・スプレッドの「フラットニング」にも寄与していたものと思われる。

これらの金融政策や金融規制といった複合的な要因から、米国短期資金市場において米ドル資金の(特に3ヶ月LIBORの)貸出に関するストレスが高まったことでSwap/OISスプレッドが上昇しており、スワップ・スプレッドに無視できない影響を与えているものと考えられる。また、米国短期資金市場のストレスの高まりは金利上昇を伴うため、内外金利差が拡大し、ヘッジコストが大きくなる方向に2重に作用することになる。
図表11:プライムMMFの残高推移(10億米ドル)

6――まとめ

6――まとめ

リーマンショック後から、スワップ・スプレッドがマイナス圏からなかなかゼロに回帰しない状況が続いているが、本稿の分析から、金融機関の信用リスクや流動性に関するストレス、国内投資家による米ドル資金需要の偏りといった複雑な事情が組み合わさっていることが分かる。しかも、スワップ・スプレッドの変動は、常に同一のテーマで変動するのではなく、例えば2013年あたりを境にして構造変化も伴っている。現在は、日米間の金融政策の方向性の違いや金融規制の影響による米国短期資金市場のストレスがテーマになっているものと思われるが、この点についてはすぐさま問題が解消されるわけではないであろう。

円建て資産の利回り低下が進んでおり、外貨建て投資も検討せざるを得ない環境下にあるが、ヘッジコストの観点から考えると、ヘッジ付きの外貨建て投資についてはしばらく厳しい環境に悩まされる日々が続くものと思われる。
【参考文献】
BIS(2016), “Covered interest parity lost: understanding the cross-currency basis,” BIS Quarterly Review, September 2016

日本銀行(2016), 「グローバルな為替スワップ市場の動向について」, 日銀レビュー, 2016年7月

日本銀行(2016), 「金融機関のドル資金調達と金融規制改革の影響」, 日本銀行ワーキングペーパーシリーズ2016年

福本勇樹(2015), 「通貨スワップ市場がもたらす外貨インセンティブの非対称性」, ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート

福本勇樹(2015), 「通貨スワップの市場環境とヘッジコストに与える影響について」, ニッセイ基礎研究所 年金ストラテジー

福本勇樹(2016), 「為替スワップ取引を用いた時のヘッジコストの考え方」, ニッセイ基礎研究所 年金ストラテジー

福本勇樹(2016), 「対外証券投資と為替変動リスクのヘッジ-為替予約を用いたリスクヘッジの注意点」, ニッセイ基礎研究所 基礎研レター
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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

(2016年10月19日「基礎研レポート」)

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