コラム
2016年10月17日

データが示す「ニッポンの母の就業の現状」とその問題点-少子化社会・女性活躍データ再考:「働く母」の活躍の道はどのように開かれるのか-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

ニッポンの母の仕事は、安定した仕事といえるのだろうか

次に、日本の子をもつ女性が果たして安定した仕事を持つことができているのか、についてデータを確認しておきたい。

総数でみると、約4割の母親が正規の仕事を有している一方で、半数を超える約6割の女性が非正規の仕事を有しているという状況である。
【図表2】(役員以外の)仕事のある母親の正規・非正規の割合
図表2からも明らかなように、母の年齢が上がるほど非正規の割合が上昇してゆく。45歳を超えると約7割が非正規の仕事に従事しているという状況になる。子の食費や教育費は一般的には年齢とともに上がっていくと考えられるため、このような状況は少なくとも母だけの経済力から考えれば、あまり望ましくない状況であるといえる。女性活躍の観点からも問題であると思われる。
 
以上、結論として、

「ニッポンの母は若くして母になるほど仕事をもちにくく、またその仕事上の地位は大半が安定したものとは言えない」

という状況である。

いわゆる「パート主婦」のあり方の見直しが「子を持つ女性活躍」の第一歩

非正規の仕事といってもその就業形態はいくつか存在する。では、ニッポンの母は一体どのような形態の非正規の仕事に従事しているのだろうか。
 
図表3を見ると、非正規の仕事に従事している母の実に79%がパートタイムの仕事である。俗に言う「パート主婦」が主流となっている。「パートのお母さんが多い」という感覚は正解である。
【図表3】非正規の仕事の具体的な職位
つまり、子を持つ女性の就業希望者の就業継続(女性活躍)問題は2つあることになる。

(1)「仕事をしたいがパートタイムも育児のために難しい」状況からの脱却

(2)「育児中は働き方があわず、正規社員の仕事が選びにくい」状況からの脱却、である。

(1)(2)いずれにしても、母以外の育児担当者がいない限り、達成することは難しい。そのため、保育拡充、男性の働き方の見直しが重要な意味を持っている。しかしこれだけでは、(1)の状態にある女性が仕事をもてる状況へ移行することは可能になっても、(2)のような短時間・短日(週3日など)といった時間制限的勤務と育児を両立させたい女性が勤続年数による給与の上昇が見込めない、すなわち「経済的に頭打ちの地位のまま」であることにはかわりがない、ことに注意したい。
 
以上から、子を持つ女性の活躍のためには、保育拡充・男性の働き方の見直しとともに、「パート主婦」の地位の是正が望まれるのである。

EU諸国に見られるパートタイムとフルタイムは単純な「時間の長短差」であり、フルタイムとパートタイムの選択に雇用不安的な要素が絡まない仕組みとなっている。ちなみに、日本でも北欧家具のイケアなどがこの「単純な時間差」の労働制度を採用している。
 
子も持つ女性の活躍推進は、その女性が受け持つ子育てそのものと同じく、決して金太郎飴的なものとなってはならない。「多様な子育て」への支援が、女性の子育てインセンティブ向上には必要となってくる。そのためにはやはり、多くの母が「パート主婦」という経済的に不利な地位にいまだあるという現状の解消は喫緊の課題である、と痛感させられるデータといえよう。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2016年10月17日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【データが示す「ニッポンの母の就業の現状」とその問題点-少子化社会・女性活躍データ再考:「働く母」の活躍の道はどのように開かれるのか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

データが示す「ニッポンの母の就業の現状」とその問題点-少子化社会・女性活躍データ再考:「働く母」の活躍の道はどのように開かれるのか-のレポート Topへ