2016年10月12日

円高は再び株価を押し下げるか-想定為替レートの変更事例から中間決算を読む

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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株価は7%程度の下方修正を織込み済み

10月に入り一時1ドル104円台まで円安に動いたものの、10月後半から11月前半の決算発表シーズンには市場実勢と想定レートが乖離している企業、特に中間決算に当たる3月決算企業の多くが想定為替レートを円高方向に変更するとみられる。その場合、業績予想の下方修正を余儀なくされる企業も少なくないだろう。
 
仮に日経平均ベースの予想EPS(1株利益)が既に想定レートを変更した企業と同じ7%下方修正された場合、株価にはどのくらいの影響があるだろうか。図4のとおり10月11日時点の日経平均の予想EPSは1,178円、PER14倍は日経平均16,492円に相当するので、1万6,000円台で膠着状態にある最近の株価水準をほぼ説明できる。今後、予想当期利益が7%下方修正されるとEPSは1,096円に減少する。このときPER15倍なら16,433円で、下方修正前のPER14倍の1万6,000円台半ばとほぼ同じ水準だ。
 
PER15倍は市場が強気でも弱気でもない“ニュートラル”な状態であることを示す。最近の市場の雰囲気は決して悪くないが明るくもない。つまり円高による業績圧迫が懸念されているものの、市場は業績予想が7%程度下方修正されることは既に織込んでおり、実際にこの程度で収まれば市場にショックを与えることなく、スムーズに中間決算を通過できるのではないか。
【図4】日経平均EPSと株価の試算
ただし、もし10%を超える想定以上の下方修正となった場合はこの限りでない。また、外部要因にもリスクの芽は点在している。例えば米大統領選挙が市場の期待と異なる結果になる、11月末のOPEC(石油輸出国機構)総会が不調に終わり漸く持ち直した原油価格が再び下落する、ドイツやイタリアの銀行の信用不安が高まるなどリスクが顕在化した場合は、図4右下に示した1万5,000円程度が視野に入るという話になりかねない。
 
問題は、これらの外部要因はコントロール不能で成り行きを見守るしかないことだ。となると、せめて1ドル=100円割れといった円高で日本企業の業績が一段と悪化するような事態に陥らないよう祈るしかないのだろうか。また、図4は7%下方修正された場合にはPER=16倍の1万7,500円程度が上値メドとなることを暗示している。11日には約1ヶ月ぶりに終値で1万7,000円を回復したものの、上値余地の乏しさが日経平均が勢い良く上昇できない一因でもあるようだ。
 
<参考>想定ドル円レートを変更した企業数(詳細表)
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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本ファイナンス学会理事
     ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

(2016年10月12日「基礎研レター」)

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