2016年10月11日

在宅介護サービスの整備-家族の介護負担は、どこまで減らせるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本では、少子高齢化が進行する中で、介護を要する高齢者へのケアの枠組みが整備されつつある。地域包括ケアシステムでは、在宅や介護施設でのケアの整備が進められている。しかし、特別養護老人ホーム等の、介護施設の整備の動きは緩やかである。今後、団塊の世代が後期高齢者に移行して、要介護者が急増すると見られる2025年までに、施設の整備がどこまで進むかは、不透明と言える。既に、2013年には、施設への入居を待つ高齢者は、52.4万人に上っている1

在宅介護の場合、介護事業者による訪問介護等だけで、24時間・365日の介護を行うことは不可能である。介護を行う主役は、要介護者の家族となる。即ち、多くの介護は、家族が担わざるを得ない。しかし、家族の負担が過度に大きくなれば、仕事を離れる(介護離職)などの問題につながる。そこで、介護事業者の在宅介護サービスを、上手に活用しながら、負担を軽減することが重要となる。

日本では、在宅介護サービスのうち、特に、通所介護が普及している。通所介護を提供する事業者は多く、利用者の数も増加している。本稿では、通所介護を中心に、在宅介護サービスの整備状況を概観することとしたい。2
 
1 「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」(厚生労働省, 平成26年3月25日)より。
2 本稿は、「在宅介護-『自分で選ぶ』視点から」結城康博(岩波書店, 岩波新書1557)、「親の入院・介護に必要な『手続き』と『お金』」中村聡樹(日本経済新聞出版社) などを、参考にしている。
 

2――在宅介護サービスの現状

2――在宅介護サービスの現状

まずは、在宅介護サービスの現状から、見ていくこととしたい。

1現在、在宅介護サービスの中心は、通所介護となっている
在宅介護は、自宅で、要介護者が介護のケアを受けながら、日常の生活を送ることを基本とする。様々な在宅介護サービスを提供する介護事業者があり、要介護者は、公的介護保険を活用して、これらのサービスを利用する。在宅介護サービスは、自宅で受けるサービスと、施設に通って受けるサービスに分けられる。自宅で受けるサービスの代表が、訪問介護である。一方、施設に通って受けるサービスは、通所介護が中心となる。この通所介護が、在宅介護全体の中でも、最も利用されるサービスとなっている。
図表1. 公的介護保険制度の、主な在宅介護サービスの給付費 (1ヵ月分)
ヨーロッパでは、在宅介護は、訪問介護が中心で、通所介護はほとんどない。一方、日本では、通所介護が中心となる。日本では、一般の家庭で、家政婦による家事代行を依頼する文化が、浸透しておらず、訪問介護として自宅にホームヘルパーを呼ぶことに抵抗があることなどが要因と考えられる。

2通所介護は、日帰りの施設で、様々な介護サービスが受けられる
通所介護の、一般的な姿を見てみよう。通所介護の事業者は、通常、自宅と施設(デイサービスセンター)の間を自動車で送迎する。朝9時頃に要介護者を迎えにきて、施設に向かう。要介護者は、施設で、夕方4時過ぎまで過ごした後、自宅に送ってもらう。場合によっては、夕方6時過ぎまで、施設で対応することもある。このように、通所介護は、日帰り型の施設サービスを指す。

施設には、特養等に併設されているものや、単独設置されたものがある。施設では、「昼食」「入浴」「体操」「昼寝」「リハビリ(簡単なもの)」「レクリエーション」などが行われる。

3通所介護の利用者は、要介護度の低い人が多い
要介護度別に、介護サービスの利用率を比較してみよう。通所介護の利用者は、要介護1がピークとなっており、比較的、要介護度の低い人の利用率が高い。これは、訪問介護のように、要介護1~3よりも、要介護5で利用率が高くなるものや、短期入所のように要介護度3~5で利用率が高いものとは、対照的な形となっている。要介護度の低い人の利用が多いことは、通所介護の特徴と言える3
図表2. 要介護度別の居宅サービスの利用率
 
3 2015年4月より要支援者向けの訪問介護、通所介護は保険給付の枠組みから外れ、「介護予防・日常生活支援総合事業」と呼ばれる市町村主体の方式に移行することとなっている(移行期間は2018年3月まで)。
 

3――通所介護事業者の増加と、規制の強化

3――通所介護事業者の増加と、規制の強化

1通所介護は、事業を立ち上げやすい上に、収益性が高い
次に、介護サービスを行う事業者の立場から、通所介護の収益性について見てみよう。

(1)訪問介護との比較
訪問介護では、在宅での介護のために、ホームヘルパーが訪問することとなり、その分の費用がかかる。また介護職員には、所定の資格が必要となる4。通所介護の場合は、この資格は必須ではない。

(2)短期入所との比較
短期入所では、宿泊のための設備や人員を用意して、夜間の管理を行わなくてはならない。施設は、消防基準等を満たす必要がありコストもかかる。通所介護には、こうした手間やコストはかからない。

(3)お泊りデイサービスの提供
そして、通所介護事業の奥の手とも言えるものが、お泊りデイサービスである。これは、通所介護で施設でサービスを受けた要介護者や要支援者が、そのままその施設に宿泊するものである。宿泊分は、介護保険が適用されないため、全額、利用者の負担となる。しかし、公的介護保険では、保険適用のサービスと適用外のサービスを混合して受ける「混合介護」が許容されている。従って、利用者は、お泊りデイサービスで施設に宿泊しても、日中の通所介護の費用については、介護保険から給付を受けることができる。介護事業者にとっては、このサービスが大きな収益源となる。

2通所介護サービスの事業者が増加し、一部でサービスの質の低下が問題視されるようになった
通所介護サービスを提供する事業者は増加した。2010年4月~2016年4月の事業者数の伸びを見ると、通所介護は、訪問介護や短期入所よりも、増加のペースが速い。
図表3. 各サービスを提供する事業者数の推移
その結果、近年、事業者間の競争が激化している。一部の施設では、レクリエーションとして、介護サービスとは、かけ離れたものが出てきている。例えば、施設をアジアンリゾート風にしたり、温泉ランドのようにしたり、カジノのような遊戯場を設けたりする、といった動きである。

一方で、新規参入する事業者のサービスの質が低下するケースも出てきた。例えば、多数の要介護を預かり、ベッドで寝かせておくだけといった、低レベルのサービスの事業者も出てきた。更に、これらの事業者が、1泊1,000円等の極端な安価で、お泊りデイサービスを手がけ、夜間の手薄な管理態勢のもとで、要介護者を宿泊させるケースもあり、安全面からも問題視されることとなった。

これらの動きを受けて、2015年の介護報酬改定では、要支援者を中心に、通所介護の報酬が引き下げられた。これにより、2015年度以降、通所介護サービスの事業者の増加ペースが弱まっている。各事業者は、介護報酬収入の減少を、コストの減少で補うために、一部のサービスをカットするなどの対応をとっている。例えば、要支援者への入浴サービスを、カットする介護事業者が現れている。
 
 
4 介護保険法における訪問介護は、介護福祉士の他、政令で定める者が行うこととされている。この政令で定める者とは、国が定めた介護職員初任者研修を修了した訪問介護員を指している。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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