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欧州大手保険グループの2016年上期末のSCR比率の状況等について-SCR比率及び感応度の推移等-
中村 亮一
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4―まとめ
各グループとも、2016年のソルベンシーIIの導入に向けて、SCR比率の水準や安定性の最適化に向けて、資本の増強やリスクの低減等の各種の対応を行ってきた。毎期の業務を通じて収益を計上するとともに、劣後債等の発行で、自己資本を積み上げるとともに、リスク面では、特に金利リスクへの対応について、ミスマッチの解消やヘッジの活用等でその低減を図ってきた。
ただし、昨今の金利の低下等の市場環境のさらなる悪化により、より一層の対応の検討を求められる状況になってきている。これに対しては、従前の延長的な考え方や手法に拠らずに、新たな考え方に基づく対応も必要になってきているものと思われる。
具体的に、各社の主要な対応策を巡る状況については、例えば、以下のようになっているものと思われる。
1|資産と負債のマッチング
資産と負債のマッチングのうちのデュレーション・マッチングについては、各社とも過去からミスマッチの解消を進めてきており、ほぼ対応がついてきている状況にある。ただし、キャッシュフロー・マッチングを含めて、資産と負債のマッチングをさらに進めていくことについては、UFRという市場金利とは直接的にリンクしていない規制上の金利が存在していることもあり、そのインセンティブが低下しているものと思われる。さらには、昨今のような低金利環境下において、マッチングをさらに進めることは、必ずしも最適な戦略とは考えられない状況にもなっている。今後は、将来の全体的なリスクを考慮して、金利上昇リスクも見据えた上での対応が求められてきていると考えられる。一方で、低金利環境下での利回り向上の観点からは、資産のデュレーションの長期化等の対応が避けられない状況にもなってきている、と考えられる。
2|株式等のリスク性資産の圧縮によるリスク低減
株式等のリスク性資産の圧縮によるリスク低減は、短期的にはSCR比率の改善に貢献することが期待される一方で、長期的な観点からは、収益力及び自己資本の形成能力の低下につながることになりかねない。今後は、リスク性資産の圧縮によるメリット・デメリットの両者のバランスをより一層考慮して対応していく必要がある。特に、昨今のような環境下で、債券中心の運用では極めて低い運用利回りしか確保できないことから、例えば配当ベースで高い利回りを確保できる株式等により注目していかざるを得ない状況にもなってきている、と思われる。
3|再保険の活用
SCR比率の改善に向けては、再保険を利用したリスク回避策も多くの会社で利用されてきている。
その中で、今回の報告対象会社には含まれていないが、例えば、英国の保険グループのAvivaは、グループ内の再保険会社を積極的に利用することで、SCR比率の改善を図っている。具体的には、リスクマージンの算出において、リスクの分散効果は同一会社内でしか認められないことから、グループ内のリスクを内部再保険会社に移転させることで、グループ内の異なる会社が抱える様々なリスクに対して、高い分散効果を享受しようとしている。
4|ヘッジの活用
各社ともヘッジ戦略を洗練化することを通じて、自社の目指す方向でのSCR比率の水準や安定性の最適化を図ろうとしている。ただし、例えば、超長期での金利リスクのヘッジについては、市場参加者が限定されていることから、高い流動性リスクや価格変動リスク等を抱えることにもなりかねない等の課題もあることから、こうしたリスクも十分に考慮した上で、ヘッジ戦略を構築していく必要がある。
5|商品ポートフォリオの見直し
商品ポートフォリオを見直して、ユニットリンク型商品や保証水準を低めた商品等の資本負担の少ない商品へのシフトを図ろうとしている。ただし、顧客ニーズとの関係で、どの程度まで保証水準を低くした商品が市場に受け入れられるのかといった点を十分に考慮した上で対応していく必要がある。その効果は短期的に現われてくるものではないが、長期的に累積されていくことで、SCR比率や資本効率性に大きなプラス効果を与えていくことになることから、着実に取り組んでいくことが求められている。
以上、ソルベンシーIIの導入に伴う各社のSCR比率を巡る対策の状況について述べてきたが、いずれにしても、各社とも、市場環境の変化や市場動向等を踏まえた上で、それぞれが置かれている状況に応じて、必要な対応策を講じていくことが求められてきている。
新たなソルベンシーII制度の下での欧州大手保険グループの対応については、日本の保険会社にとっても参考になるものがあると思われ、極めて興味深いことから、今後も注視していきたい。
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中村 亮一
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(2016年10月11日「保険・年金フォーカス」)
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