2016年10月11日

欧州大手保険グループの2016年上期末のSCR比率の状況等について-SCR比率及び感応度の推移等-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2016年上半期の業績報告の発表が8月に行われている。今回の保険・年金フォーカスでは、新たなソルベンシーII制度に基づく各社のSCR比率の水準やその感応度について、2015年末から(会社によっては2014年末から)2016年上期末にかけての推移を報告する。併せて、2016年上期末における資産と負債のマッチングや投資損益に関する状況等について、報告する。これらを通じて、低金利及びボラタイルな市場環境下で、各社がソルベンシーII制度の導入に向けて及び導入後の半年間でどのように対応してきたのかを報告する。
 

2―欧州大手保険グループのSCR比率の推移

2―欧州大手保険グループのSCR比率の推移

欧州大手保険グループのSCR比率(=自己資本/SCR(ソルベンシー資本要件))の2014年末から2016年上期末の推移については、下記の表の通りとなっている。

事業の地域構成の差異からくる為替等の影響に加えて、規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの変更を実施している会社もあるため、単純な推移比較ができない。さらには、各社の生保と損保等の事業構成比率等の差異から、目標とするSCR比率等も異なっているので、単純な各社間の絶対水準の比較もできない、ことには注意が必要になる。

ただし、AXA、Allianz、Generaliといった、ユーロ圏の3カ国に親会社を有する保険グループについては、ほぼ同じ傾向の推移を示しており、2014年末から2015年末にかけては、比率を上昇させたが、2016年第1四半期に市場環境の悪化を主因として、比率を低下させ、上期末にはほぼその水準を維持している。
SCR比率の推移

3―各社毎のSCR比率や感応度の推移

3―各社毎のSCR比率や感応度の推移

各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や感応度の抑制に向けた対応を行ってきていたが、2016年に入ってからも、着実に営業利益を積み上げることに加えて、劣後債の発行等で資本の充実を図ってきている。なお、以下のSCR比率の推移の要因分解は、各社の公表資料に基づいているが、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容も各社各様である。

1|AXA
AXAは、2016年3月に2047年に満期を迎える15億ユーロの劣後債を発行することで、市場環境の影響によるSCR比率のマイナス分の一部をカバーしている。

感応度については、資産と負債のマッチングを進めること等で、金利低下の影響を引き下げてきている。
SCR比率推移の要因/感応度の推移
2016年上期末の資産のデュレーションは8.3年とさらに長期化している。
2016年上期末の資産のデュレーション
また、生命・貯蓄保険(Life & Savings)について、グループ全体での上半期の新規の平均投資利回りは2.0%で、新契約の平均保証利率0.4%を上回っている。さらに、資産運用利回りは3.4%で、保有契約の負債の平均保証利率2.0%を上回っている。ともに、100bpsを上回るスプレッドを確保している。
生命・貯蓄保険(Life & Savings)の新契約と保有契約のスプレッド
2|Allianz
Allianzは、2016年第1四半期において、市場環境の影響を強く受けたことに加えて、2016年初にモデル変更等が行われたため、自己資本を大きく低下させている。

なお、(1)ソブリンスプレッドや為替変動に対するヘッジ、(2)欧州銀行部門への株式エクスポジャーの軽減、が市場のボラティリティに比較してSCR比率を維持することに貢献した、としている。また、2016年上期末の数値には、韓国生命保険事業売却によるソルベンシーIIのプラス効果は反映されていない、としている。

感応度については、ほぼ着実に低下させてきている。
SCR比率推移の要因/感応度の推移
また、過去1年間において、グループにおける保証付商品のシェアが36%から28%に低下したのに対して、資本効率の高い商品のシェアが28%から42%に上昇して、両者のシェアが逆転した、としている。これにより、資本負担の軽減が図られていくことになる。

さらに、資産と負債のデュレーションについては、ともに長期化してきている。

また、再投資利回りは、2.3%と、さらに低下している。
生命保険部門の資産・負債のデュレーションと再投資利回り
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中村 亮一

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