2016年10月07日

リオ2016報告-文化プログラムを中心に

東京2020文化オリンピアードを巡って(2)

吉本 光宏

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3――港湾エリアの再開発とvisit rio

大会期間中、リオ市内で文化的にも最も注目できる場所は旧市街地のMaravilha港エリアの再開発にあわせて設置された「オリンピック大通り(Boulevard Olimpico)」であった。その一帯はブラジルの歴史上でも重要な場所であるが、近年では建物の老朽化が進み、一部は廃墟となるなど、すっかり荒廃してリオ市内でも最も危険な地域となっていた。

リオデジャネイロ市は、連邦政府、州政府の協力を得て500万m2のエリアに、15年間で80億レアル( 約2,500億円)の投資を誘致して再開発を進める計画で、2016年のリオ大会を目指して、急ピッチで整備が進められてきた。

ウォーターフロントを覆っていた高速道路が撤去され、埠頭には巨大な未来博物館(Museum of Tomorrow)を建設、2年前にはリオ市の美術館も開館している。一部工事中の区間が残されているがLRTも敷設され、サイドウォーク(計画では65万m2)の整備や1万5,000本の植樹も進められている。

そのエリア一帯をオリンピック大通りとして市民に開放、大小3つのライブサイトが設置・運営された[図表2の(2)(3)(4)]。中心部にはスタジアムのものよりかなり小ぶりだが、聖火台が設けられ[図表2の(1)]、聖火の前では市民が思い思いのポーズで記念写真を撮っていた。
リオ旧市街のウォーターフロントに設営されたオリンピック大通り
他にも、リオ2016大会の公式スポンサーの各種アトラクションや展示施設などを設置。例えば、日産自動車はクレーンを使ったバンジージャンプを、地元ビールメーカーのSkolは世界最大級の気球をそれぞれ設営。コカ・コーラは港湾地区の倉庫を改修して「Parada Coca-Cola(Coca-Cola Station)」を開設、コンサートの他、アスリートや著名人の登場するイベントを実施した。

ライブサイトでは、競技会場に出向かなくても各種競技が巨大なスクリーンでライブで見られる。ブラジル選手が登場する試合では多くのリオ市民が熱狂していた。競技のライブ上映の合間には、音楽やダンスなどのイベントを次々に開催。大音量に合わせて踊るリオ市民の姿が印象的だった。

これらオリンピック大通りの文化イベントをコーディネイトしたのはリオ市観光局で、彼らの発行したvisit rio magazineの特別号には、ライブサイトの催しだけではなく、リオ市の観光案内、オリンピック会場等の基本情報が掲載されている。

オリンピック会期終盤の8月18日(木)と19日(金)はリオ市長によって特別の休日となったため、オリンピック大通りは市民でごった返していた。現地の方によれば、オリンピック開催をきっかけに再開発によってこのエリア一帯が清潔で安全な場所になったこと、文化的な拠点が整備されて憩いの場になったことを、リオ市民はたいへん歓迎しているということであった。
オリンピック大通りの様子

4――国際交流の拠点、各国ハウス

もうひとつ、リオ2016大会中の文化事業として見逃すことのできないのが、各国が設置した55のホスピタリティ・ハウスでの取組である。一部は招待客のみを対象としていたが、多くは一般に広く開放され、各国の観光案内や文化イベント、アトラクションなどを楽しむ来場者で賑わった。

日本が出展した東京2020ジャパン・ハウスはバッハ地区に数年前に開館したリオ市の大規模な複合文化施設「Cidade das Artes」に設けられた。東京2020大会の概要を紹介するエリア、日本食のPRや8Kの映像体験、観光情報などを紹介する日本政府エリア、東京以外の全国46都道府県を紹介する自治体エリアなど、7つのエリアで構成。中でも「茶道」「浴衣」「書道」「ヨーヨー」の4つの日本文化を体験できるエリアは人気で、どれも長蛇の列ができ、ブラジルにおける日本文化への関心の高さがうかがえた。

海外のホスピタリティ・ハウスでは、アフリカの54ヶ国が共同で出展したカーサ・アフリカ、4,100㎡というスペースに様々なアトラクションを用意したスイス・ハウスなども訪問したが、印象に残ったのは英国のブリティッシュ・ハウスである。招待客のみを対象に毎日様々な文化イベントが実施されていた。ロンドン市の招待で訪れた「MADE IN LONDON!」では、ロイヤル・オペラやロイヤル・バレエの団員による短いパフォーマンスの後、ロンドン発の文化が映像で次々に紹介される。最近亡くなったデビッド・ボウイの映像や音楽など、ロンドンがこれまでいかに世界のアートシーンをリードしてきたかを再認識させられる。

ドリンクやフードのサービスも美味で、英国料理に対する悪評をすっかり忘れさせてくれる。最後はマイクと肉声だけを使ったパフォーマンスで知られるビートボックス・コレクティブのライブが続いた。

各国が趣向を凝らした展示や文化イベントを展開するホスピタリティ・ハウスは、オリンピック・パラリンピックを舞台にした国際文化交流の拠点として機能しており、東京2020大会でもその役割が大いに期待される。
東京2020ジャパン・ハウスとブリティッシュ・ハウス
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吉本 光宏 (よしもと みつひろ)

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