2016年10月07日

2016・2017年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版) 2016年10月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1――景気は持ち直しへ

2016年4-6月期の実質GDPは、前期比0.2%(前期比年率0.7%)と2四半期連続のプラス成長となった。

外需寄与度は前期比▲0.3%と4四半期ぶりのマイナスとなり、企業収益の悪化を受けて設備投資は前期比▲0.1%と2四半期連続で減少した。一方、1-3月期のうるう年の反動にもかかわらず民間消費が前期比0.2%の増加となり、住宅ローン金利低下の追い風や消費増税延期決定前に駆け込み需要が発生していた影響から住宅投資が前期比5.0%の高い伸びとなった。また、2015年度補正予算、2016年度当初予算の前倒し執行の効果から公的固定資本形成が前期比2.6%と1-3月期の同0.2%から伸びが加速し、国内需要は1-3月期に続いて民需、公需ともに前期比プラスとなった。

4-6月期の成長率は1-3月期の前期比年率2.1%から低下したが、GDP統計では季節調整をかける際にうるう年調整が行われておらず、1-3月期は日数増により年率1%程度押し上げられる一方、4-6月期は年率▲1%程度押し下げられている(当研究所による試算値)。この影響を除けば4-6月期の実質GDPは1-3月期の年率1%程度から1%台後半へと伸びが高まる。景気は実態としては持ち直しつつあると判断される。

2――円高局面では消費が景気を下支え

2016年に入り、世界経済の減速懸念、米国の利上げに対する慎重姿勢の高まり、英国のEU離脱決定などから円高傾向が続いている。

円高はすでに日本経済に明確な影響を及ぼしている。法人企業統計の経常利益は2015年10-12月期に前年比▲1.7%と4年ぶりの減益となった後、2016年1-3月期が同▲9.3%、4-6月期が同▲10.0%と減益幅が拡大した。消費者物価(生鮮食品を除く総合)はエネルギー価格の大幅下落を主因として2016年3月以降、前年比でマイナスが続いているが、足もとでは円高に伴う輸入物価の下落が食料品を中心に物価の押し下げ要因となっている。

また、円安の追い風を受けて急増が続いていた訪日外国人旅行者数は前年比で二桁の伸びを続けているものの伸び率は鈍化傾向にある。円高は外国人旅行者の消費単価の低下につながり、百貨店の外国人観光客向け売上高は2016年4月以降、前年比でマイナスとなっている。

円高は物価、企業収益、輸出、設備投資などを下押しする一方で、家計にとっては物価上昇率の低下が実質購買力の上昇につながるというメリットもある。1980年以降の実質GDPの需要項目毎の動きを円高局面と円安局面に分けてみると 、円安局面では輸出、設備投資が経済成長の牽引役となるが、円高局面では設備投資が失速する傾向がある一方で、民間消費が景気を下支えしていることが分かる[図表1]。

円高は企業収益の減少を通じて家計部門にも悪影響が及ぶため、名目ベースの雇用者報酬は円高局面のほうが円安局面よりも伸びが低い。しかし、円安局面では物価上昇率の高まりとともに実質雇用者報酬の伸びが低下するのに対し、円高局面では物価上昇率の低下によって実質雇用者報酬の伸びが名目雇用者報酬を上回るようになり、消費の下支えにつながっている[図表2]。

足もとの雇用所得環境を確認すると、2016年の春闘賃上げ率が前年を下回ったこともあり、一人当たり名目賃金は伸び悩みが続いているが、企業の人手不足感の高さなどを反映した雇用者数の高い伸びが雇用者所得の増加に大きく寄与している。さらに、円高、原油安の影響で物価上昇率がマイナスとなっていることが実質ベースの雇用者所得を押し上げている。実質雇用者所得(一人当たり実質賃金×雇用者数)は2016年6,7月には前年比3%台の高い伸びとなった[図表3]。円高の進展を受けて企業部門は厳しさを増しているが、家計にとっては円高による物価下落がむしろ追い風となり、消費を取り巻く環境は改善している。
円高局面では消費が景気を下支え/円高局面では実質雇用者報酬が伸びる/実質雇用者所得の推移

3――実質成長率は2016年度0.7%、2017年度1.0%を予想

2016年7-9月期以降は円高の影響で輸出、設備投資が引き続き低調に推移するものの、雇用所得環境の改善を主因として民間消費が伸びを高めること、熊本地震の復旧、経済対策の効果から公的固定資本形成が増加を続けることから、景気は緩やかな持ち直しを続けることが予想される。実質GDP成長率は在庫調整圧力が残る中で輸出、設備投資の低迷が続く2016年度中は年率ゼロ%台にとどまるが、円高の影響が一巡し企業部門が回復に向かう2017年度には年率1%台まで高まるだろう。実質GDP成長率は2016年度が0.7%、2017年度が1.0%と予想する[図表4]。

実質GDP成長率の予想を需要項目別にみると、民間消費は2015年度の前年比▲0.2%から2016年度に同1.0%と3年ぶりの増加となった後、2017年度も同1.0%の増加を予想する。

消費動向を左右する雇用所得環境の先行きを展望すると、2016年度中は一人当たり名目賃金の伸びが大きく高まることは期待できないが、雇用者数が増加を続けること、円高、原油価格下落の影響で物価上昇率が低下することから、実質ベースの雇用者所得は高めの伸びを続けるだろう。2016年度のGDP統計の実質雇用者報酬は前年比2.2%となり、1995年度(前年比2.7%)以来21年ぶりに2%台の高い伸びとなることが予想される。実質所得の増加を主因として民間消費は回復に向かう可能性が高い。

ただし、2017年度は円高、原油安の一巡などから消費者物価が上昇し実質所得が下押しされる公算が大きい。2016年度に3年ぶりに前年を下回った春闘賃上げ率が高まらなければ、物価上昇に伴う実質所得の低下が再び消費の低迷につながる恐れがあるだろう。

設備投資は企業収益が大幅な増加を続ける中でも低い伸びにとどまってきたが、ここにきて海外経済の減速、円高の影響で企業収益が大きく悪化していることが、設備投資のさらなる抑制につながっている。設備投資が回復に向かうのは円高の一巡、海外経済、国内需要の持ち直しから企業収益が増加に転じる2017年度となるだろう。

公的固定資本形成は、熊本地震の復旧工事、「未来への投資を実現する経済対策」の効果から増加基調が続くだろう。ただし、安倍政権発足後は毎年、年度末にかけて補正予算が編成される一方、当初予算は抑制気味となっており、補正予算がなければ年度末にかけて公共事業が落ち込んでしまう構造になっている。2017年度も抑制気味の当初予算が組まれた場合には、年度末にかけて補正予算の編成が必要となるだろう。

2016年入り後の大幅な円高にもかかわらず輸出数量は横ばい圏で踏みとどまっている。しかし、為替変動の影響が輸出数量の変化に現れるまでにはタイムラグがあるため、円高による下押し圧力は今後高まる可能性が高い。

海外経済は新興国を中心に減速傾向が続いている。為替レートは米国の利上げ再開に伴う日米の金利差拡大を主因として徐々に円安・ドル高が進むことが予想される。このため、輸出は2016年度後半以降持ち直しに向かうが、海外経済の低成長が続くことから輸出の伸びが大きく加速することは見込めない。

一方、輸入は国内需要の持ち直しに伴い伸びを高めることから、外需が景気の牽引役となることは期待できないだろう。外需寄与度は2016年度に前年比▲0.3%と3年ぶりのマイナスとなった後、2017年度は▲0.0%とほぼ横ばいにとどまると予想する。
実質GDP成長率の推移
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2016年10月07日「基礎研マンスリー」)

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