2016年10月04日

ドイツの生命保険会社の状況(4)-IMFによるFSAPの報告書 「ストレステスト」-

中村 亮一

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4|政策勧告
IMFは、以上のストレステストの結果等を踏まえて、以下の政策勧告を行っている。

・BaFinは、会社がソルベンシーII要件を満たす上で困難に直面する場合には、行動計画を要求すべきである。

・当局は、リスクを軽減するために、一般大衆や保険契約者に対するコミュニケーションに関する戦略を開発することが奨励される。

・当局はストレステストの手法を改善し続け、定期的にマクロプルーデンスなストレステストを実施すべきである。

・当局は、中期的には保険部門のセーフティネットの十分性と柔軟性を分析することを勧告する。

新たなソルベンシーII制度に関連して、(1)会社が困難に直面した場合の行動計画の要求、(2)一般大衆や保険契約者に対して説明責任を果たすべくコミュニケーション戦略の開発、さらには、(3)ストレステストの改善等、(4)セーフティネットの十分性と柔軟性のを分析 等について勧告している。
 

POLICY RECOMMENDATIONS

78.BaFinは、会社がソルベンシーII要件を満たす上で困難に直面する場合には、行動計画を要求すべきである。ソルベンシーII指標による保険会社の財務健全性についての不確実性と新しい要件への市場のフォーカスを前提とすれば、BaFinは、会社が経過措置に依存している場合には、保険会社が、長期の経過期間において発生するかもしれないストレス条件下においても、経過期間末までに、完全な要件を満たすための堅牢で信頼できる計画を有していることを確実にしなければならない。BaFinは必要ならば、事業を制限したり又は経過措置の承認を取り消す行動を起こさなければならない。

79.当局は、リスクを軽減するために、一般大衆や保険契約者に対するコミュニケーションに関する戦略を開発することが奨励される。経過措置が無い場合のソルベンシーIIの数字を透明にすることは適切である。しかしながら、補足的な説明がない複雑な数字の開示は、業界に対する市場の信頼を傷つけることになる。それゆえ開示は良く書かれた説明と信頼できる再建計画とともに行われるべきである。多くの会社が経過措置に依存することが想定されていることを考慮すれば、公衆が会社や業界全体に関する合理的な確信を保てるように、業界だけでなく、当局も(例えば、取られた行動を一般的な言葉で表現したスピーチや公表物を通じて)説明責任を果たすべきである。

80.当局はストレステストの手法を改善し続け、定期的にマクロプルーデンスなストレステストを実施すべきである。実用的な監督上で使用するためには、FSAPにおいて使用されたストレステストのアプローチに改善の余地がある。データ品質や利用可能性は、ソルベンシーIIに基づく保険会社の報告が手に入るようになった後は、大きく改善することが期待される。当局は、ソルベンシーIIの下での業界の脆弱性を捕捉するために、ストレステストの手法、データ品質や検証分析を改善し続け、業界ワイドのストレステストを定期的に実施すべきである。

81.当局は、中期的には保険部門のセーフティネットの十分性と柔軟性を分析することを勧告する。このストレステストは、セーフティネット上の具体的な政策提言を描き出すために重要な進展を必要としているが、このテストでは、個別企業の充足能力を超える可能性のある潜在的な資本不足を特定化している。状況を改善するために、個々の企業の最善の努力を奨励し、再建及び破綻処理計画を向上させつつ、適切かつ柔軟なセーフティネットは、最悪の場合に破壊的風評上の失敗や資本ポジションのさらなる悪化から、業界を助けることができる。ドイツの生命保険部門は、(Protektorのような)保険保証制度があるが、しかしながら、複雑なポートフォリオの譲渡の有効性に関する不確実性が存在している。当局が、現在のセーフティネットが、考えられうるマーケットワイドのストレス状況においても、十分であることに満足し、必要に応じてセーフティネットを改善することが奨励される。

 

3―まとめ

3―まとめ

以上、これまでの4回のレポートで、BaFinやIMFの資料に基づいて、ドイツの生命保険会社の状況を報告してきた。

その内容からは、低金利環境下でドイツの生命保険業界が大きな課題を抱えていることが、窺い知れる。ただし、以前のレポート6でも述べたように、BaFinは、こうした状況を十分に認識して、ここ数年間にわたって、必要な対応を講じてきている。直近の市場環境は、こうした対応策では必ずしも十分とはいえない状況も生み出し、今後さらなる対応が求められてきている状況にあるように見える。さらには、新たなソルベンシーII制度は導入されたばかりであり、これに伴い今後とも継続的に取り組んでいかなければならない課題が数多く残されているようである。

ドイツは、ソルベンシーII制度の実施に伴い、市場整合的な評価に基づくソルベンシー評価が導入されていく場合に、EU諸国の中で、最も大きな影響を受ける国の1つである。

現在、昨今の市場環境の変化等に対応して、UFR(終局フォワードレート)の水準見直しの議論が行われ、各種の緩和・経過措置に対する批判的な意見が見られる等、EIOPAにおいて、ソルベンシーIIの各種見直しに向けた圧力がかかっている。こうした見直しが行われていくことになると、影響を最も受ける形になるのがドイツの生命保険会社であると考えられている。その意味で、ドイツの保険監督官庁であるBaFinが、こうした動きに対して、どのように対応していくのか、という点については極めて興味深いものがある。

EIOPAにおけるBaFinのスタンス及び低金利環境における生命保険各社の経営状況の監視・指導におけるBaFinの対応については、今後とも注視していきたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年10月04日「保険・年金フォーカス」)

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