2016年10月04日

ドイツの生命保険会社の状況(4)-IMFによるFSAPの報告書 「ストレステスト」-

中村 亮一

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3|ストレステストの概要と結果
(1)ストレステストの概要
今回のストレステストの概要について、同じくそのポイントとなっている「各項目の冒頭部分のみを抄訳」して報告すると、以下の通り説明されている。

保険部門のストレステスト(抄訳)

44.ソルベンシーII体制の下での生命保険部門での長期の低金利の影響を定量化するために、トップダウンのストレステストが実施された。
45.結果は、経過措置の有無で、SCR比率に関して記載されている。
46 保険業界は、高いソルベンシー比率を有し、利益を上げているが、特に生命保険会社の場合に、これらの数字についての慎重な分析が必要とされている。
47.ストレステストは、(資産と保険料収入によって)最大かつ最も金利リスクに晒されている生命保険部門に焦点を当てている。
48.保険ストレステストは、部門に対する全ての主要なリスクを評価している。
49.ストレステストは、資産と負債の両方の影響をカバーしている。

(2)ストレスの概要
ストレステストの「データと手法」に関しても詳しい内容が説明されているが、このうち、「ストレスの概要」についてまとめると、以下の通りとなっている。

・1年間の99.5%の信頼水準によるVaRに基づく
・金利:リスクフリー・イールドカーブを20%(長期)から75%(短期)引き下げ
・株式:株価の22%から49%の低下
・社債やローンのスプレッド:ショック水準はデュレーションと信用の質による(例えば、5年のヂュレーションに対しては、4.5%から37.5%の債務削減)
・不動産:商業及び居住用不動産価格の25%低下
・ソブリン債:周辺国(peripheries)は100bp、コア(core)は25bp、米国・英国・日本は50bp高いスプレッド

(3)ストレステストの結果
ストレステストの結果のうち、SCRカバレッジ比率の状況等は、以下の通りである。なお、計算日は2014年12月31日である。

・ストレステストは、技術的準備金で約93%の市場シェアを占める75のドイツの生命保険会社をカバーしている。

・生命保険会社全体のSCRカバレッジ比率の加重平均は、ショック前後で、372%から236%に低下する。13の会社がショック後に100%のSCRカバレッジ比率を維持することはできないが、いかなる会社もショック後に負の資本とはならない。

・経過措置が無い場合、加重平均のSCRカバレッジ比率は126%から48%に下落する。34社(58社)がショック前(後)で100%のSCRカバレッジ比率を満たすことができない。8社(27社)がショック前(後)で負の資本となる。

・総資本不足額は、ショック前で120億ユーロ、ショック後で390億ユーロとなる。

以上のように、経過措置の適用により、多くの保険会社の資本水準は、一般的に十分であるようにみえるが、経過措置が無ければ、ストレス・シナリオにおいて、大多数の生命保険会社は、ソルベンシーII のSCR比率を満たす上で困難を経験する、という結果になっており、経過措置への大きな依存が明確に示されている。

B. Results(結果)

61.少数派の会社が、ショック後にSCR比率を満たすのに困難を有しているが、経過措置の適用により、保険会社の資本水準は、一般的に十分であるようにみえる(図23)。ショック後に、生命保険会社のSCRカバレッジ比率の加重平均は372%から236%に低下するものの、100%以上のSCRカバレッジ比率を維持する。75のうち13の会社がショック後に100%のSCRカバレッジ比率を維持することはできないが、いかなる会社もショック後に負の資本とはならない。結果として得られるショック後の名目資本不足は重要ではない。

62.経過措置がなければ、ストレス・シナリオにおいて、大多数の生命保険会社は、ソルベンシーIIのSCR比率を満たす上で困難を経験する。加重平均のSCRカバレッジ比率は126%から48%に下落する。 34社(58社)がショック前(後)で100%のSCRカバレッジ比率を満たすことができない。8つの会社と27の会社がそれぞれ、ショックの前後に負の資本となる。総資本不足額はショック前で120億ユーロ、ショック後で390億ユーロとなる。

63.ビジネスモデルは、保険会社の相対的耐性力の重要な決定因子である(表3)。個々の大手保険会社は、一般的に、他の規模の会社よりも耐性力があるようにみえる。小規模の保険会社はさらに、比較的高い損失吸収能力を示しており、彼らの多くは、収益性が低金利環境により影響を受けにくい保障型のビジネスに集中している。いくつかの中規模の保険会社は、低金利やその他の市場リスク要因に対してより敏感である。さらなる分析は、事業構成、未実現利益の額、将来の裁量的な保険契約者配当、平均保証利率が、規模よりも優れた説明要因であると思われることを示している(結果は示されていない)。

図23.全体的なSCRカバレッジ比率

表3 大規模、中小保険会社のさらなるインパクト分析

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中村 亮一

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