2016年10月04日

ドイツの生命保険会社の状況(4)-IMFによるFSAPの報告書 「ストレステスト」-

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1―はじめに

ドイツの生命保険会社の状況に関する1回目のレポートでは、BaFin1の2015年Annual Report(年次報告書)に基づいて、(1)低金利環境下における生命保険会社の状況、(2)ソルベンシーIIの内部モデルの適用状況、等について報告した。

さらに、2回目のレポートでは、BaFinが7月から8月にかけて公表した資料に基づいて、生命保険会社を中心としたソルベンシーII比率の状況について、報告した。

前回の3回目のレポートでは、IMF(国際通貨基金)が行ったドイツの金融監督に対するFSAP(Financial Sector Assessment Program:金融セクター評価プログラム)2の結果について、報告した。

今回のレポートでは、同じくIMFのFSAPの報告書の中で公表されている生命保険会社に対するストレステストの結果34の内容について報告する。以下で、特に断りが無い限り、引用はIMFの資料からのものである。
 
1 BaFin(Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)はドイツの保険監督官庁である。
2 FSAPはIMF加盟国の金融システムの健全性につき評価を行う仕組みである。保険セクターについては、保険監督者国際機構(IAIS)が制定している「保険コア・プリンシプル(Insurance Core Principle 以下「ICP」)」の26項目について評価される。
3 FINANCIAL SECTOR ASSESSMENT PROGRAM STRESS TESTING THE BANKING AND INSURANCE SECTORS—TECHNICAL NOTE
http://www.imf.org/external/pubs/ft/scr/2016/cr16191.pdf
4 BaFinも、そのWebsiteで、IMFのストレステストについて公表している。 https://www.bafin.de/SharedDocs/Veroeffentlichungen/EN/Meldung/2016/meldung_160630_IWF-Stresstest_en.html;jsessionid=5AD9B1BE6C6DA6E52815E63829C1A230.1_cid290
 

2―FSAPの「ストレステスト-テクニカルノート」

2―FSAPの「ストレステスト-テクニカルノート」

IMFによるFSAPのストレステストに関する記述のうち、保険に関する部分は、以下の通りとなっている。

1|エグゼクティブサマリー
要約は、以下の通りとなっている。

・ドイツの保険会社は、低金利環境からの課題に直面している。

・保険会社の資本水準は経過措置で十分に見えるが、生命保険会社の大半は、経過措置に頼ることなく、ソルベンシーIIの要件を満たすことが難しい状況にある。

・ビジネスモデルは、保険会社の相対的な耐性力の重要な決定要因である。

EXECUTIVE SUMMARY(エグゼクティブサマリー)

ドイツの保険会社は、低金利環境からの課題に直面している。一般的には経済を刺激する可能性にもかかわらず、超低金利は、生命保険会社にとって深刻な問題となっている。それは即時の金融の安定性の問題ではないけれども、長期化する低金利期間は、保険会社のビジネスモデルや特定の保険契約で保証されているリターンを生成する能力に、重くのしかかってきている。自己資本比率は、近年減少傾向にあった。 2016年1月1日以降に発効した保険規制のためのEU(欧州連合)の枠組みであるソルベンシーIIが、フォワードルッキングな評価において、ソルベンシーへの低金利の影響を認識するために、生命保険会社に追加の圧力を形成した。これら全ての要素が、いくつかの保険会社を、よりリスクの高い投資を求める利回りサーチに向かわせる要因となっている。

保険会社の資本水準は経過措置で十分に見えるが、生命保険会社の大半は、経過措置に頼ることなく、ソルベンシーIIの要件を満たすことが難しい状況にある。EU法に基づく経過措置を斟酌すれば、殆どの生命保険会社は、100%を上回るソルベンシーII資本要件(SCR)比率を維持するであろう。ただし、経過措置無しでは、それらの大部分は、実質的な資本不足を経験し、SCRを満たしていないだろう。

ビジネスモデルは、保険会社の相対的な耐性力の重要な決定要因である。テストは、法的なエンティティレベルで行われた。個別のより大きい保険会社は一般的に他の会社よりも耐性力がある。小さい保険会社もまた比較的高い損失吸収能力を示している。多くの小規模会社は、収益性が低金利環境の影響をあまり受けず、したがって、非常に高いSCRカバレッジ比率を有している保障型事業に焦点を当ててきている。いくつかの中規模の保険会社は、低金利環境と追加の市場のショックに対してより脆弱である。さらなる分析は、他の特徴、ビジネスミックス、未実現利益の額、将来の裁量的な保険契約者配当、平均保証利率のような他の特徴が、バランスシートの規模よりもより重要なドライバーであるように見えることを示している。

2|金融システムと市場構造-保険部門-
金融システムと市場構造に関して、保険部門における記述については、そのポイントとなっている「各項目の冒頭部分のみを抄訳」して報告すると、以下の通りとなっている。

ドイツの保険会社の現状が、特に生命保険会社を中心に説明されている。

金融システムと市場構造(抄訳)

C.保険部門
23.ドイツの生命保険会社は、保守的に投資している。
24.それにもかかわらず、利回り追求の証拠がある。
25.保証付商品はまだ生命保険市場を支配している。
26.保証商品は、生命保険会社をリスクに露出させる。
27.保証商品の支配により、長期の低金利は、生命保険会社の財務の健全性に影響を与えている。
28.健康、損害、および再保険会社は、より堅牢であるようにみえる。
29.生命保険会社は、新契約や保険契約者の利益配分の両方の保証レートを低減することにより、低い投資収益に対処するための取り組みを行っている。
30.2014年に、当局は、生命保険改革法における措置を通じて生命保険会社への圧力の一部を削減しようとした。
31.これらの改革は、保険リスクに起因する契約者配当の最小割当を75%から90%に増やすための措置によって補完された。
32.特に、大会社は、低金利の課題に対処するための新商品を導入しているが、数年間では有意な影響は何も感じられないだろう。
33. BaFinは413の保険会社を監督している。

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中村 亮一

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