2016年10月05日

平成29年度に向けた予算と税制改正等の動き

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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平成29年度に向けた予算・税制の議論が始まる季節がやってきた。まずはこれまでの経緯としては、昨年から継続審議になっていた確定拠出年金法の改正案が、今年の国会(第190回国会)の中で5月に可決したことを挙げておく。この改正の目玉は、個人型確定拠出年金の加入範囲の拡大であり、専業主婦や一定の条件を満たす企業型確定拠出年金加入者、公務員等共済加入者も加入可能となり、これで現役世代の大半が使えるようになるとされる。また企業年金間の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)が拡充され、例えば年金制度間の通算が認められることにより、年金加入期間についての受給要件を満たしやすくなるなど、利便性が高まることになる。その他にも資産運用面での改善など多くの項目が改正される。なお、施行期日は項目により異なるが、加入範囲の拡大は2017年1月、運用の改善なども法律公布の日から2年以内とされているので、遅くても2018年5月までには施行されることになるし、関連する税法上の手当がなされることは、既に2年前の平成27年度税制改正時に大筋は決まっている。

さて次に、平成29年度予算案に向けた議論が始まっている。8月末に出された各省の概算要求においては、一般会計予算が101兆円台という規模になり、3年連続で100兆円の大台を超えた。「100兆円を超える」ことに特に意味はないと思われるが、年々増大しているという財政上の危機感がある。実際、平成28年度当初予算96兆7,218億円と比べても、約5兆円多くなっている状況にある。このうち厚生労働省の要求である社会保障費は31.1兆円、対前年度2.7%増と過去最大となっている。他に主なところとしては、防衛省が2.3%増の5.1兆円、総務省が4.3%増の16.6兆円、国土交通省が15.4%増の6.7兆円など、過去最大レベルの要求とのことである。これは昨今のマイナス金利など低金利が続けば、国債費(償還と利息)のうち利息が想定よりも軽くなるとの見通しから、各省庁がその浮いた財源を当てにした、との報道もある。実際に、国債費は国債残高の増加によって1兆円増加の24.6兆円となってはいるものの、昨年同時期の要求に比べると、金利低下の効果により1.4兆円減少している。

昨今の低金利は、年金制度の財政にとっては、利息収入の減少という面で、大変大きな痛手となっていると考えられるが、一方で金利が上がると、こうした国債費が大きな負担になるわけで、その分、予算全体の圧迫要因となる。両方ともはなかなかうまくいかないものである。今後、予算案は財務省と各省庁の折衝によって、年度末に向けて絞り込まれ、全体で概算要求よりも5兆円程度は減少するものと考えられている。

予算案のうち、各種年金制度に関わるものとしては、歳出の中では年金財源など、歳入の中では税制改正の議論が主なものであり、厚生労働省が主体となっている要望項目である。先に挙げた厚生労働省の要求額のうち、年金・医療等に係る経費は29兆円1,060億円で、増加要因のうち高齢化等に伴う増加額は、6,400億円と見積もられている。
年金支払財源は、このほかに、特別会計で64兆円7,573億円(対前年度1.1%増)が要求されており、高齢化等によって年々支払規模が増加している一端をみることができる。ただし、年金関係は特に大きな改正があるわけではないので、今回は主に自然増だけに留まるようで、むしろ厚生労働省関連では、「ニッポン一億総活躍プラン」につながる医療・保育そして介護、働き方の変革などに重点がおかれているようだ。

一方、収入側の税制改正要望をみると、年金関係は厚生労働省が次のような要望を出している。

○企業年金等の積立金に対する特別法人税の撤廃(法人税 法人住民税関係)
(これは金融庁も要望している。また銀行、生命保険、損害保険など関連する業界団体はほぼ全団体が要望している。)
○確定拠出年金における退職所得控除に係る勤続年数の算定の見直し(所得税、個人住民税)

特別法人税は、制度としては、本来掛金拠出時に給与所得として課税すべきところを給付時まで課税が繰り延べられることを踏まえ、その期間の遅延利息相当分を課税する考え方に基づき、積立金の約1.2%の税が課される、といった内容のものである。実際には、金融市場の状況や企業年金の財政状況に鑑み、平成11年度より課税凍結中である。2~3年ごとに凍結措置の延長を繰り返してきており、今回は平成28年度末が凍結期限、という区切りの年(つまり、どの官庁・業界も何も要望しないと来年から課税されてしまう、という瀬戸際)になる。とはいえ、いつも通り最低でも延長されることで、税負担増は生じないと考えられる。またそれに加えて、先に述べた確定拠出年金法改正時の付帯決議においても、「特別法人税廃止を検討すること」とされているので、例年より要望が実現する見込みが高いのかもしれない。

また、民間の各業界団体もこの時期から税制改正要望を関連省庁に示し、実現に向けた活動を始める。年金関係の税制については、生命保険協会と信託協会が主役である。また企業年金連合会なども有力な団体であろう。具体的な要望は多岐にわたるが、一言でいえば、確定拠出年金などの拠出限度を引き上げる方向の要望、脱退時の一時金受取など取扱要件の緩和、さらなるポータビリティの拡充などに対応する税制の措置、などが主なものである。拠出限度などは政策的、財源的に最も重要な項目であろうが、制度に関する技術的なことであれば、年金については「所要の改正を行なう」という形で認められやすい情勢にあると思われる。

年金そのものの税制もさることながら、ライバル?にあたるNISA(少額投資非課税制度)の改善というべき項目を、金融庁が要望している。現行制度と較べて、より少額からの積立・分散投資に適するようにという主旨で、年間投資上限60万円、非課税期間20年(現行NISAは、それぞれ120万円、5年)とする「積立NISA」(金融庁資料上の呼称)の創設である。現行NISAの投資可能期間は10年間(平成35年まで)だが、ともに恒久化し、どちらかを選択するという提案になっている。個人型DCとNISAは、どちらも貯蓄手段として有力なものだが、限度額や拠出時・引き出し時の要件、実際の税メリットの規模など、それぞれ一長一短がある。貯蓄目的(老後資金か短期かなど)との関係もあろうが、制度の動向によって、普及に向けた関係金融機関の力の入れ具合も違ってくるかもしれない。こちらも注目だろう。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年10月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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