コラム
2016年09月30日

【台湾】中台関係の冷却化で蔡政権の支持率が低下~改革スピードの減速に懸念

経済研究部 研究員   斉藤 誠

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中国人観光客の減少で観光業者らがデモ

(図表1)台湾への来訪者数 9月12日、台湾の台北市でホテルや飲食店など観光業者ら1万人以上によるデモが行われた。今回のデモは、外国人観光客の減少による観光業の苦境を訴えると共に、政府に対して国内旅行の拡大や中国・ASEAN諸国への観光PR強化、観光ビザ緩和などの対応策を求めるものだ。

この観光デモの背景には、台湾の対中政策の転換と中国の「アメとムチ」がある。2008年に発足した前・馬英九(国民党)政権は親中政策に舵を切り、中国政府は「恵台政策(台湾への利益供与策)」の一環として2008年7月から台湾への観光客の送り出しを始めた。その後も中国政府が徐々に台湾への渡航制限を緩和するなかで中国人観光客は急増を続け、2015年の外国人旅行者数は1044万人と、この8年間で約3倍に膨れ上がった。しかし、2016年1月の総統選挙で民主進歩党(民進党)の蔡英文主席が勝利したことをきっかけに流れは変わった。蔡氏は総統就任演説で、中国と前・国民党政権が共有した「(台湾と中国は)一つの中国」の原則(92年コンセンサス)への支持を表明しなかった。これを受けて、中国政府は5月の蔡総統就任以降、外交圧力として訪台ツアー客の渡航制限を開始した。その結果、全体の約4割を占める中国大陸からの観光客数が4ヵ月連続の二桁減となり、8月の外国人旅行者数は前年同月比3.4%減のマイナスに転じた。中国の「アメ」で台湾経済の中国依存度が高まった分だけ、「ムチ」の影響力も増大したと言える。

民進党は台湾独立を党綱領に掲げる政党である。今後も蔡総統が92年コンセンサスを認めるとは見込みにくく、今後は観光業以外の面でも中国政府からの圧力がかかる展開が懸念される。

支持率悪化で改革スピードの減速が懸念

(図表2)蔡総統の政権運営に対する世論評価/(図表3)台湾と韓国の海外市場占有率 こうして中台関係の冷え込みが台湾経済への悪影響を及ぼし始めるなか、政権支持率が低下している。台湾指標民調の世論調査(9月下旬調査)によると、蔡総統の政権運営に「満足」と答えた人は38.4%と、総統就任時の50.2%から大きく低下した(図表2)。一方、「不満」と答えた人は48.3%と、過半数に達しつつある水準だ。不支持が広まった背景には、中台関係悪化と経済低迷に加え、期待通りに改革が進まないことや政権発足時の人事を巡る混乱などがあるとみられている。

足元の輸出は台湾企業が生産を受託している「iPhone 7」向けが好調で底打ちの動きが見られる。しかし、世界経済は依然として力強さを欠くなか、輸出の本格回復までは見込みにくい。先行きの台湾経済は緩慢な成長が続きそうだ。

また台湾製品の競争力が低下しつつあることも、今後の成長期待が高まらない要因になっている。台湾と同じく1970~1980年代に経済が急成長してアジア四小龍と呼ばれた韓国の海外市場シェアを台湾のそれと比較すると、この約10年間で主要4市場における台湾のシェアが落ちている一方、韓国のシェアは上昇もしくは小幅の低下に止まっていることが分かる(図表3)。これは台湾が経済連携協定で韓国から遅れをとっていることが主因と見られる。韓国はASEAN諸国(2007~2010年)、インド(2010年)、EU(2011年)、米国(2012年)、中国(2015年)とのFTAを発効してFTA先進国と評される一方、台湾のFTA締結数は中国とシンガポールなど6カ国に止まる。中国との関係悪化を懸念する国が台湾とのFTAに積極的ではないことも影響している。さらに中国企業の成長は著しく、台湾の得意とする電気・電子産業においても、中国市場では中国企業による「赤いサプライチェーン(紅色供応鏈)」が浸透しているようだ。これまで台湾経済を牽引してきた中国向けの電気・電子機器の輸出にも陰りが見えてきている。

また国内を見ても、台湾は急速な高齢化への対応や年金改革の遅れといった問題も抱えており、経済を安定した成長軌道に戻すことは簡単ではない。

新政権は、これまでの効率駆動型の経済モデルから「創新、就業、分配」を核とするイノベーション駆動型の経済モデルへ移行するなかで単一市場(中国)への依存を減らそうとしており、筆者はこの方向性は間違っていないと考える。民進党が政権を握れば中台関係が冷え込む展開は当初から予想されたことであり、また前政権が手をつけていない問題に取り組むにも時間は掛かるはずだ。にもかかわらず、政権発足から半年でこれほど支持率が低下したのは驚きだ。台湾世論に政権支持的な態度が広まり、改革の推進力が高まることを願う。

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経済研究部   研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
アジア・新興国経済

(2016年09月30日「研究員の眼」)

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