2016年09月30日

導入迫るリスク分担型企業年金-DB制度改正(案)の概要とリスク分担型企業年金への移行時に留意すべきポイント

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹

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3シミュレーション結果-企業のリスク負担割合によって加入者・受給者の給付減額リスクは大きく異なる
図表6が試算結果である。図中の上位5%は、5000通りの試算結果のうち、20年後の給付水準で上位5%に相当する水準を示す。また、縦軸の数値は、20年後の給付水準の当初の給付水準に対する倍率である。従って、1.0倍は移行時の給付水準と20年後の給付水準が同じであることを、1.0倍超は20年後の給付水準が移行時よりも多くなることを、1.0倍未満は少なくなることを示す。
図表6 企業のリスク負担割合別の20年後の給付水準(分布)
企業の負担割合が25%のケースでは、平均は0.98倍2であり、平均的には移行時と同水準の給付が得られる可能性がある。一方で、下位5%の水準は、0.8倍を割り込んでおり、20年後の給付水準が移行時の8割以下に減額される可能性が5%以上あることが示唆される。これとは対照的に企業の負担割合が100%のケースでは、平均が1.16倍で、下位5%の水準も0.99倍であり、20年後に給付が減額される可能性は5%強に留まる。このように、企業のリスク負担割合によって、加入者・受給者が晒される給付減額リスクは大きく異なるのである3

企業の負担割合が大きいほど、将来的に給付減額となる可能性を低く抑えられることは、シミュレーションをするまでもなく、想定された結果である。しかし、企業の負担割合の違いが、加入者や受給者が負担することになる給付減額リスクにどの程度影響するかについては、こうしたシミュレーションを通じてでしか明らかにならない。このため、労使間のリスク分担の在り方を協議する際には、こうしたシミュレーションを通じた給付減額リスクの程度について、ある程度の目処をつけることが重要と考えられる。

なお、DB制度の改正案では、通常のDB制度からリスク分担型企業年金に移行する場合、企業のリスク負担割合が50%以上、つまり、財政悪化リスク相当額の半額以上を移行時の積立剰余とリスク対応掛金で充足しなければ、給付減額と見做される。

また、予定利率低下リスク相当額と価格変動リスク相当額の合計額として算定される標準方式に基づく場合、仮に財政悪化リスク相当額の50%に相当するリスク対応掛金(現価)を企業が負担するとしても、価格変動リスク相当額が財政悪化リスク相当額の50%を超える場合には、価格変動リスク相当額全額をカバーできるわけではない。こうしたケースでは、価格変動リスク相当額が20年に一度の頻度で発生する資産価格の変動に耐えられる額として算定されるものであるにしても、20年に一度よりも高い頻度で給付減額が生じうる点には注意が必要だろう。
 
2 企業のリスク負担割合が25%というのは、給付現価に対して積立剰余があることに相当する。剰余があるにも関わらず、20年後の給付水準が移行時の0.98倍と1倍を割り込むのは、給付増額よりも給付減額の可能性が高いことが影響している。このシミュレーションでは、財政悪化リスク相当額を約31.4億円としているため、企業が拠出するリスク対応掛金の現価は、財政悪化リスク相当額の25%の約7.8億円となる。このため、リスク分担型企業年金のルールにより、約7.8億円を超える運用損失が発生すると、給付減額となる。一方、給付増額となるためには、財政悪化リスク相当額の75%(=100%-25%)に相当する約23.5億円の運用収益が獲得される必要がある。このように、減額よりも増額の可能性が高いことが、20年後の平均的な給付水準が当初の水準を下回る一因となっている。
3 シミュレーション結果は、財政構造や資産構成、各資産に仮定する期待リターンやリスク・相関係数によって異なることが想定される。図表5は、ある前提のもとでの結果であって、20年後の一般的な給付水準を示すものではない。あくまでも企業のリスク負担割合が異なる場合の相対的な給付水準の違いを示すものであることにつき、ご留意頂きたい。
 

4――リスク分担型企業年金でリスクを軽減するためのポイント

4――リスク分担型企業年金でリスクを軽減するためのポイント

1移行時の積立剰余が労使のリスク負担を軽減
リスク分担型企業年金は、個々の実情に合わせて、企業と加入者・受給者との間のリスク負担割合を柔軟に取り決めることができる点に最大の特徴があるが、労使が負担する制度全体のリスクを抑える検討も欠かせない。リスク分担型企業年金への移行時の積立剰余(掛金収入現価と積立金の合計が給付現価を上回る額)は、財政悪化リスク相当額を充足する割合を高めることになるため、積立剰余が大きい時期ほど、労使の実質的な負担を抑えた移行が可能になる。

この点について確認したのが図表7である。積立剰余とリスク対応掛金収入現価で、財政悪化リスク相当額を充足する割合を変えなければ、積立剰余がある場合(B)では、積立剰余がない場合(A)に比べ、企業が追加的に負担するリスク対応掛金は少なくて済むことになる。一方、企業が拠出するリスク対応掛金の現価を変えなければ、積立剰余がある場合(C)では、ない場合(A)に比べ、財政悪化リスク相当額の充足割合を高めることができ、その分、加入者・受給者の負担を軽減することができる。つまり、積立剰余が多いときほど、労使で負担するリスク総量を軽減できるのである。このため、リスク分担型企業年金への移行を検討するのであれば、積立状況を意識する必要があるとも言える。
図表7 積立剰余と労使の実質的なリスク負担
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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

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