2016年09月30日

導入迫るリスク分担型企業年金-DB制度改正(案)の概要とリスク分担型企業年金への移行時に留意すべきポイント

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹

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3導入が予定されるリスク分担型企業年金の概要
リスク対応掛金と財政均衡の考え方を利用し、事業主たる企業と加入者・受給者の間でリスクの負担割合を柔軟に設定できる企業年金制度として新たに導入が予定されるのが、リスク分担型企業年金である。リスク分担型企業年金では、新規導入時、もしくは、通常のDB制度からの移行時に、企業が一定の期間にわたって拠出する将来の財政悪化に備えるためのリスク対応掛金の総額は確定され、移行後にリスクバッファーを超える積立不足の発生により財政の均衡が崩れる場合には、給付額を調整することで財政の均衡を図る仕組みである(図表3)。財政状況が悪化したとしても、企業が追加的に掛金拠出を迫られることがないところに、通常のDBと大きく異なる特徴がある。ただし、リスク対応掛金の拠出限度に相当する財政悪化リスク相当額の算定方法は、上述の通常のDB制度における算定方法と異なる点がある(図表4)。

リスク分担型企業年金の財政悪化リスク相当額を標準方式で算定する場合、価格変動リスク相当額(上述の[資産区分ごとの「残高×リスク係数」の総和])だけでなく、予定利率が1%低下した場合に想定される積立不足(以下、予定利率低下リスク相当額)もリスクとして認識し、両者を合算した額として、財政悪化リスク相当額を算定するように規定されている。
図表3 リスク分担型企業年金の給付増額・減額のイメージ
図表4 通常のDBとリスク分担型企業年金の財政悪化リスク相当額算定ルールの違い
また、価格変動リスク相当額についても、通常のDB制度では、実際の資産構成に基づくこととされるが、リスク分担型企業年金では、長期にわたり維持すべき資産構成、つまり、政策アセットミックスに基づいて、所定の資産区分(図表2)に合致する資産構成(リスク算定用資産構成割合)を合理的に定めることとされている。DB制度では、政策アセットミックスの策定は努力義務とされ、策定が義務付けられているわけではない。しかし、リスク分担型企業年金では、事実上、政策アセットミックスの策定が義務付けられることになる。

こうした義務を課したのは、企業が拠出する掛金額が予め確定され、その後の財政上の均衡の崩れを、給付水準の調整で吸収するリスク分担型企業年金においては、予定利率の引き下げによる財政の悪化リスクも認識する必要があること、積立金運用の巧拙が給付水準を左右するリスク分担型企業年金では、運用方法を加入者・受給者に周知し、合意を得ることが重要となることを考慮した結果と推測される。

また、通常のDB制度では、所定の資産区分の“その他”の構成割合が20%以上の場合、特別方式による算定が求められるが、リスク分担型企業年金では、10%以上の場合に特別方式での算定が義務付けられる。リスク分担型企業年金の標準方式の適用基準が、通常のDB制度よりも厳しく設定されているのも、加入者・受給者を保護する観点から、“その他”に区分される実際の運用リスクを適切に反映して、財政悪化リスク相当額を算定する必要があるとの判断が働いたためと考えられる。
 

3――リスク分担型企業年金の給付減額リスクを踏まえた労使合意の必要性

3――リスク分担型企業年金の給付減額リスクを踏まえた労使合意の必要性

1リスク分担型企業年金への移行では加入者・受給者の給付減額リスクの共有が重要
通常のDB制度からリスク分担型企業年金に移行する場合、労使間でどのようにリスクを分担するかについて、合意を得ることが前提となる。このため、合意形成にあたっては、企業がリスク対応掛金として負担する額だけでなく、その結果として、加入者・受給者が給付減額という形でどの程度リスクを負担することになるかについて、明らかにすることが重要である。企業が負担する額はリスク対応掛金に限定され、具体的な負担額が明確となる一方で、加入者・受給者の負担は必ずしも明らかではないためである。そこで以下では、ある前提のもとで、給付減額のリスクがどの程度かについて、シミュレーションした結果を確認する。
 
2シミュレーション前提
シミュレーション時の財政上の前提は、予定利率2.5%、給付現価100億円、標準掛金収入現価25億円、積立金75億円とし、現行の規定における財政均衡状態を仮定した。積立金運用の資産構成は2014年度のDB制度の平均的な政策アセットミックスである「内債37%、内株16%、外債12%、外株14%、一般勘定(GA)19%、短資2%」とした。また、財政悪化リスク相当額は標準方式に従って算定し、約31.4億円(価格変動リスク相当額は14.9億円、予定利率低下リスク相当額は16.4億円)とした。

また、各資産の期待リターンは、資産構成割合で加重平均したポートフォリオ全体の期待リターンが2.5%となるように、「内債0.5%、内株5%、外債3%、外株6.5%、一般勘定(GA)1.25%、短資0%」とし、リスクおよび資産間の相関係数は、1996/4~2016/3までの各資産を代表するインデックスのリターンにより推計した値とした。

こうした前提のもとで、企業のリスク負担割合を「企業が拠出するリスク対応掛金収入現価/財政悪化リスク相当額」と定義し、企業のリスク負担割合が25%、50%、75%、100%の4通りのケース(図表5)で、20年後の給付水準を、モンテカルロ・シミュレーションにより5000通り試算した。ちなみに、企業のリスク負担割合が25%のケースでは、現価が7.9億円(=財政悪化リスク相当額31.4億円×25%)となるように、リスク対応掛金を拠出することを前提とする。
図表5 企業のリスク負担割合別の財政のイメージ
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梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

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