2016年09月30日

導入迫るリスク分担型企業年金-DB制度改正(案)の概要とリスク分担型企業年金への移行時に留意すべきポイント

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹

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1――目前に迫るDB制度の改正

昨年度来、検討が進められてきた掛金の弾力的な拠出を可能とするリスク対応掛金と、この仕組みを活用した新たな制度としてのリスク分担型企業年金が、ともに導入に向けた最終段階に差し掛かっている。5月27日に「確定給付企業年金法施行令の一部を改正する政令案等」に関して、6月20日には、「通常の予測を超えて財政の安定が損なわれる危険に対応する額の算定方法(案)」および「関係通知の改正案」に関する意見募集が公示され、既に意見の受付が締め切られている。寄せられた意見や情報をもとに修正される可能性はあるものの、概ね原案通りで今年度内の施行が見込まれる。以下では、上記の意見募集で明らかになった改正内容(案)を概観し、その上で、リスク分担型企業年金に焦点を当てて、通常のDB制度からの移行に際して留意すべきポイントについて確認したい。

2――DB制度の主な改正内容

2――DB制度の主な改正内容

1掛金拠出の弾力化と財政均衡の考え方の見直し
現行では、掛金収入現価と積立金の合計が給付現価と一致する状態を財政均衡とし、掛金収入現価と積立金の合計が給付現価を上回る場合には掛金の増額はできない。その反面、積立金の減少などにより、掛金収入現価と積立金の合計が給付現価を下回る積立不足に陥ると、財政の均衡を図り、将来の給付の確実性を高める必要性から、掛金の追加拠出が強いられる仕組みとなっている。つまり、積立不足の発生が、掛金の追加拠出に直結する仕組みとなっており、運用損失などにより積立金が減少し易い景気悪化局面では、追加の掛金拠出と企業収益の悪化が同時に発生し、DB制度を運営する企業の負担を高める一因ともなっている。

今回の改正は、DB制度を運営する企業の負担軽減を図るべく、掛金拠出を弾力化し、同時に、財政均衡の考え方を見直すものである。具体的には、予め算定された将来の財政悪化時に想定される積立不足(以下、財政悪化リスク相当額)の範囲で、リスク対応掛金という名目での追加拠出を認め1、このリスク対応掛金を含む掛金収入現価と積立金の合計が、「給付現価」と「給付現価+財政悪化リスク相当額」の範囲に収まっている状態を財政均衡とする改正である(図表1)。掛金収入現価と積立金の合計が給付現価を上回る場合であっても、給付現価と財政悪化リスク相当額の合計額を超えない範囲で掛金の増額が可能となるため、母体企業が財務面で余裕のあるときに、将来の財政悪化に備えて掛金を増額することができ、景気悪化時に積立不足に陥るリスクを抑えることができるようになる。別な言い方をすれば、企業が拠出する掛金額が、景気変動の影響を受け難くなり、その分、財政の安定化が期待できることになる。
図表1 リスク対応掛金と新しい財政均衡のイメージ

1 正確には、リスク対応掛金設定時のリスク対応掛金を含む掛金収入現価と積立金の合計が、給付現価と財政悪化リスク相当額の合計を超えない範囲で、リスク対応掛金の設定が認められる。
2財政悪化リスク相当額の算定方法(通常のDB制度)および拠出方法
リスク対応掛金の拠出限度に当たる財政悪化リスク相当額は、20年に一度の頻度で発生すると予想される積立不足の最大額として、原則として全てのDB制度において定期的な算定が求められる。算定方法には、画一的で簡便的な算定が可能な標準方式と、個々の財政上の特質を考慮することが求められる特別方式がある。標準方式では、資産の価格変動により積立金が減少するリスクのみを財政悪化リスク相当額とし、所定の資産区分ごとの残高に、各資産に対応する所定のリスク係数を乗じた額の総和により算定することとされる(図表2)。ただし、“その他”の構成割合が20%以上などの場合には、特別方式による算定が義務付けられる。特別方式は、資産の価格変動により積立金が減少するリスクだけでなく、予定利率・予定死亡率・予定脱退率等の基礎率と実績とが乖離することに伴い発生しうる危険を考慮するよう努めることとされ、厚生労働大臣の承認を受ける必要がある。いずれにせよ、こうして算定される財政悪化リスク相当額からリスク対応掛金設定前のリスク充足額(現行の規定における積立剰余で、「掛金収入現価と積立金の合計が給付現価を上回る額」)を控除した額を限度に、リスク対応掛金の設定が可能になる。
図表2 標準方式における所定の資産区分・リスク係数および財政悪化リスク相当額の算定例
リスク対応掛金の具体的な拠出額の決定には労使の合意が必要だが、拠出方法としては、3通りの方法が挙げられている。一つ目は均等拠出で、5年以上20年以内の範囲で予め規約に定めた期間にわたり、均等にリスク対応掛金を拠出する方法。二つ目は、所定の方法によって算出される上下限の範囲で、毎事業年度のリスク対応掛金の拠出額を規約で定める方法。三つ目は定率拠出で、毎事業年度にリスク対応掛金の未拠出額に、15%以上50%以下の範囲で規約に定めた一定の割合を乗じて、拠出する方法である。ただし、リスク対応掛金は将来の財政上のリスクに備えることが目的であり、積立不足の補充を目的とする特別掛金とは異なり、緊急性に欠けることから、長期にわたる拠出が前提とされている。
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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

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