2016年09月30日

中国経済:景気指標の総点検(2016年秋季号)~李克強指数は急回復も、総合判断としては小康状態

三尾 幸吉郎

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3.その他の景気指標を点検すると

【電力消費量】
その他の指標では電力消費量が注目される。李克強首相は特に工業の電力消費量を重視していたとされる。1-8月期の電力消費量は前年同期比4.2%増と昨年通期の同1.0%増を上回っている。産業別に見ると、第2次産業は前年同期比2.0%増と昨年通期のマイナスから小幅なプラスに転じており、第3次産業も同11.0%増と昨年通期を上回る伸びを示した(図表-7)。但し、7-8月は広範囲で高気温に見舞われたという要因があることから、9月統計を確認する必要は残る(図表-8)。
(図表-7)電力消費量(業種別)/(図表-8)電力消費量の推移
【貨物輸送量】
貨物輸送量も重要な指標である。鉄道貨物輸送量は李克強首相が重視していた指標である。1-8月期の貨物輸送量を見ると、前年同期比3.5%増と昨年通期の同4.4%増を下回る伸びに留まった(図表-9)。内訳を見ると、石炭利用の低迷を受けて急減していた鉄道貨物に底打ちの兆しがでてきたことは好材料だが、電子商取引(EC)など新たな消費活動の動きを反映する道路貨物が1-8月期に前年同期比4.8%増と昨年通期の伸びを下回ったことが懸念材料となっている(図表-10)。
(図表-9)貨物輸送量(輸送手段別)の伸び率/(図表-10)鉄道貨物と道路貨物の推移
【工業生産者出荷価格】
物価も景気と密接な関係がある。モノに対する需要が強ければ値段は上がり、需要が弱ければ下がるからである。足元の動きを見ると、8月の工業生産者出荷価格は前年同月比0.8%下落と直近最低値(同5.9%下落、昨年8-12月)に比べるとマイナス幅を縮小してきている。生産財は原油価格などの反転を受けて前年同月比1.0%下落とマイナス幅を大きく縮小、川上に位置する産業ほどマイナス幅の縮小傾向が鮮明となっている(図表-11)。また、消費財は前年同月比0.0%と横ばいで推移している。今春に値上がりが顕著となった食品は前月比0.1%下落と2ヵ月連続で小幅に下落したものの、恒常的に下落してきた耐久消費財はマイナス幅をやや縮めた(図表-12)。
(図表-11)工業生産者出荷価格(生産財)/(図表-12)工業生産者出荷価格(消費財)
【通貨供給量(M2)】
金融面から景気動向を見る指標としては通貨供給量(M2)が挙げられる。足元の動きを見ると、8月は前年同月比11.4%増と、「13%前後」とされた2016年の政府見通しを大きく下回っている(図表-13)。一方、M1は8月に前年同月比25.3%増と急速に伸びを高めている。これに関して、中国人民銀行の盛調査統計局長は、企業は資金を投資に回さず貯め込んでいるとして「流動性の罠」の可能性を指摘した。民間企業の投資意欲を回復させるには金融政策だけでは手詰まり感があることを示唆したものと見られる。但し、融資サイドから見ると、投資に結び付くことの多い中長期融資が8月も同16.9%増と伸びを高めたことから、国有・持ち株企業の投資は健在と見ている(図表-14)。
(図表-13)通貨供給量(M2)の推移/(図表-14)中長期融資の推移
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三尾 幸吉郎

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