2016年09月26日

ドイツの生命保険会社の状況(2)-BaFinの公表資料より(ソルベンシーII比率の状況)-

中村 亮一

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1―はじめに

前回のレポートでは、BaFin1の2015年Annual Report(年次報告書)に基づいて、(1)低金利環境下における生命保険会社の状況、(2)ソルベンシーIIの内部モデルの適用状況、等について報告した。

今回のレポートでは、BaFinが7月から8月にかけて公表した資料に基づいて、生命保険会社を中心としたソルベンシーII比率の状況に関して、各種の経過措置の適用状況や比率の分布と変化等について報告する。
 
1 BaFin(Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)はドイツの保険監督官庁である。
 

2―ソルベンシーII比率の状況(保険事業全体及び事業別の概要)

2―ソルベンシーII比率の状況(保険事業全体及び事業別の概要)

BaFinは、2016年1月1日(「Day 1 報告(Day 1 Reporting)」)及び2016年第1四半期末(2016年3月31日)におけるソルベンシーII比率の状況について、(1)7月8日に、保険事業全体の結果2を、(2)8月9日に、生命保険、損害保険、健康保険、再保険の保険事業別の結果3、を公表している。

1|保険事業全体の結果
7月8日の資料によると、保険事業全体のソルベンシーIIの平均カバレッジ比率は、2016年1月1日時点で約305%であったが、2016年第1四半期末には、市場環境の悪化により、約280%に低下した。また、342の報告会社の多くが、SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)を算出するために標準式を使用したが、39のケースで規制上のカスタマイズオプションによって承認された手法を使用した、としている。

さらに、8月9日の資料によると、「損害保険におけるいくつかの例外を除けば、全ての保険会社が新たなソルベンシー資本要件(SCR)への十分なカバレッジを提供することができた。」としている。

なお、2016年1月1日時点から2016年第1四半期末への数値の変動を踏まえて、BaFinのチーフ・エグゼクティブ・ディレクターのFrank Grund氏は、「市場環境の変化によるボラティリティの高いレベルは、SCRカバレッジ比率のみに基づく比較は慎重に扱われるべきだということを明確に示している。」と述べている。

具体的には、8月9日の資料では、以下の通り記載されている。
 

BaFinは、新しい監督制度であるソルベンシーIIが2016年1月1日に発効して以来、初めて個々の保険事業に対して報告された数値からの調査結果を発表した。

「Day 1 報告」と最初の四半期報告書の評価は、損害保険におけるいくつかの例外を除けば、全ての保険会社が新たなソルベンシー資本要件(SCR)への十分なカバレッジを提供することができたことを示した。しかしながら、2016年の第1四半期では、SCR比率は、困難な資本市場環境のために、特に生命保険において、著しく低下した。

「この詳細な要約を公開することで、BaFinは新しいソルベンシーII制度でしっかりと確立された透明性の原則を適正に考慮している。」とチーフ・エグゼクティブ・ディレクターのFrank Grund氏は説明した。BaFinは、会社固有のデータが2017年に公開される前に、主要な保険事業の概要を公開することが重要である、と考えた。Frank Grund氏は、「全ての市場参加者は、生命、財産、損害、健康および再保険に関する新たな制度の影響に慣れる機会を持つべきである。特に、市場環境の変化によるボラティリティの高いレベルは、SCRカバレッジ比率のみに基づく比較は慎重に扱われるべきだということを明確に示している。」と付け加えた。

 

2|保険事業別の結果
SCRカバレッジの状況を保険事業別に見た場合、

「全ての生命・健康・再保険会社が、2016年1月1日時点及び第1四半期末時点の両方において、ボラティリティ調整及び(16年間にわたる)経過措置等の適用4により、ソルベンシー資本要件を満たしていたが、損害保険会社のうちの3社(第1四半期末では2社)がソルベンシー資本要件を満たせなかった。」

としている。

また、生命保険会社においては、「2016年1月1日時点で、生命保険会社84社の全てが十分なSCRカバレッジを報告し、その平均比率は283%であったが、第1四半期末では、それは著しく悪化した。」としている。さらに、「生命保険会社の半数近くが、ボラティリティ調整及び経過措置の両方を利用している。」としている。

具体的には、以下の通りとなっている。
 

保険事業別に分類された調査結果
2016年1月1日時点で、生命保険部門の84の会社の全てが、十分なSCRカバレッジを報告した。セグメントのSCRカバレッジ比率は283%となった。しかしながら、第1四半期の間に、それは著しく悪化した。生命保険会社の半数近くは、ボラティリティ調整及び経過措置の両方を利用している。

損害保険では、平均カバレッジ比率は、年初の278%から、第1四半期末に280%で、殆ど変わらなかった。2016年1月1日時点では、報告要件の対象となる186の損害保険会社のうち3社は、十分なSCRカバレッジを提供することができなかった。第1四半期末までに、この会社数は2社に低下した。監督措置のおかげで、これら2つの会社のうちの1つは、今はソルベンシー資本要件を満たしている。

BaFinの監督下にある41の健康保険会社の全ては、両方の報告日で十分なカバレッジを報告した。8つの健康保険会社は、長期保証措置、即ちソルベンシーIIの下での長期保証評価のための特別な措置や経過措置を適用している。

2016年1月1日時点で、再保険部門は326%の平均SCRカバレッジだったが、第1四半期末までに320%へとわずかに低下した。5つの再保険会社は、部分的または完全な内部モデルを使用している。

BaFinは、そのウェブサイト上で、保険事業別に分類した結果の詳細な要約を発表した(ドイツ語版のみ)。2017年から、全ての元受保険会社、再保険会社、保険グループは、ソルベンシーIIの下でのソルベンシーおよび財務状況に関する報告書を公開しなければならなくなる。

 

 
4 ボラティリティ調整及び経過措置等の内容については、基礎研レター「 EUソルベンシーⅡの動向-長期保証措置(MA・VA・経過措置)の適用申請・承認等の状況はどのようになっているのか-」(2015.10.13)を参照いただきたい。
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中村 亮一

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