2016年09月21日

貿易統計16年8月~季節調整値の貿易収支は黒字が継続

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.貿易収支は原数値では赤字も、季節調整値では黒字が継続

財務省が9月21日に公表した貿易統計によると、16年8月の貿易収支は▲187億円と3ヵ月ぶりの赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:2,000億円、当社予想は42億円)を下回った。円高の影響で輸出入ともに前年比で大幅減少となったが、原油価格の下落を反映し輸入の減少幅(7月:前年比▲24.7%→8月:同▲17.3%)が、輸出の減少幅(7月:前年比▲14.0%→8月:同▲9.6%)を大きく上回ったため、貿易収支は前年に比べ5,488億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比0.9%(7月:同▲2.4%)、輸出価格が前年比▲10.4%(7月:同▲11.9%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比3.8%(7月:同▲4.0%)、輸入価格が前年比▲20.3%(7月:同▲21.5%)であった。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移/輸出金額の要因分解/輸入金額の要因分解
原数値の貿易収支は3ヵ月ぶりの赤字となったが、8月はもともとお盆休みの影響で輸出量が少なく貿易赤字になりやすいという季節性がある。季節調整済の貿易収支は4,084億円の黒字となり、7月の3,402億円から黒字幅が拡大した。輸出が前月比▲0.0%(7月:同▲1.7%)の横ばいとなる一方、原油価格下落の影響で輸入が前月比▲1.3%(7月:同▲1.7%)の減少となったことが貿易黒字の拡大につながった。

原数値の貿易収支は16年に入ってから1月、5月、8月が赤字となったが、これらはいずれも季節要因で赤字になりやすい月で、季節調整値の貿易収支は15年11月以降、10ヵ月連続で黒字となっている。貿易収支の実勢を判断するには季節調整値を用いることが適切であり、貿易収支は基調としては黒字が継続していると判断される。

2.米国向けの輸出数量が大きく落ち込む

8月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲5.6%(7月:同0.5%)、EU向けが前年比10.2%(7月:同4.1%)、アジア向けが前年比▲3.3%(7月:同0.2%)となった。

季節調整値(当研究所による試算値)では、米国向けが前月比▲10.3%(7月:同▲0.4%)、EU向けが前月比▲2.2%(7月:同▲1.7%)、アジア向けが前月比0.4%(7月:同▲1.5%)、全体では前月比0.0%(7月:同▲1.6%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 8月の輸出数量指数(季節調整値)は全体では横ばいで踏みとどまったものの、米国向けが急速に落ち込んだ。7、8月の平均でみてもEU向け、アジア向けがそれぞれ4-6月期を0.3%、1.2%上回る一方、米国向けが▲1.3%下回っている。ただし、米国経済自体は底堅さを維持していること、8月の急速な落ち込みは特殊要因の可能性もあることから、米国向けの輸出が実勢として弱くなっているかを判断するには9月以降の動向を見る必要があるだろう。

地域毎にバラツキはあるが、輸出数量全体では引き続き横ばい圏の動きとなっている。4-6月期のGDP統計では財貨・サービスの輸出が前期比▲1.5%となり、外需寄与度が前期比▲0.3%と4四半期ぶりのマイナスとなった。円高に伴うインバウンド需要の鈍化からサービス輸出も弱い動きが続いていることを合わせて考えると、7-9月期も外需が成長率の押し下げ要因となる可能性が高いだろう。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2016年09月21日「経済・金融フラッシュ」)

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