サービス・グローバル企業のアジアにおける事業展開の研究(3)：シンガポール航空―常に世界で最高水準の評価を受ける有力航空会社の戦略・特徴点は何か？　|ニッセイ基礎研究所

3―業界内での優れたポジション・評価

世界の主要なエアライン人気ランキングで常に上位の一角を占めてきた。数多くの受賞歴があるが紙幅の制約もあり、直近の2つは以下のとおりである。

・英スカイトラックス社による航空会社の格付けで、実質最高評価の「ザ・ワールド・ファイブ・スター・エアラインズ（The World's 5-Star Airlines：5つ星）」の認定を得ている。また'World's Best Cabin Crew Service' by the Business Traveller Asia-Pacific Awards を17年連続で受賞している。

・リクルートライフスタイルのエイビーロード・リサーチ・センターが実施した「エアライン満足度調査2016」で、シンガポール航空は、総合満足度1位を5年連続で獲得（因みに、2位全日空、3位KLMオランダ航空、4位ニュージーランド航空、5位エミレーツ航空、6位日本航空（JL）となっている）この調査は、航空機の機材・設備や接客サービスなど5項目の評価結果をもとに総合ランクを算出したものであり、満足度向上に最も大きな影響を与える要因は「客室乗務員の接客サービス」、次いで「航空機の機材、設備」であり、いずれもシンガポール航空の注力しているポイントである。

4――卓越した業績・サービスを生む出す要素

同社が世界的に高い評価を受けている最大の要因は、同社の「最新鋭の翼とやさしいおもてなし」のコンセプトに基づく高レベルのサービスと評されている。この卓越した業績・サービスを生み出す要素を整理してみたい。

・最新鋭機をいち早く導入し、保有機就航年数も平均7年7か月（2016年現在、旅客機ベース）の短いサイクル：このことは安全性の源泉となるだけでなく、顧客にとっての安心感・快適さにつながり、同社にとってはメンテナンスコスト、燃料費の節約に寄与する。

・男女のキャビンアテンダント（CA）の機内サービスの高評価：特に、世界的に知られた女性CAの制服である「サロンケバヤ」（フランスのデザイナーピエールバルマン氏による）に身を包んだ女性CAは「シンガポールガール」と呼ばれ、同社の象徴的存在²である。客室乗務員の採用・訓練（期間は約3か月、人件費総額の約13%を訓練に充てている）の厳しさでは定評がある。機内の立ち居振る舞い、化粧や髪の色形・アクセサリー、機外での自動車の乗降の仕方などまでトレーニングが行われる。多民族国家であるシンガポールを反映して、CAも中国系、マレー系、インド系など、多くの民族から構成される点も特徴的である。CAによるきめ細やかな接客、「呼ばれる前に「気づく」きっかけ作り」といわれる顧客とのサービスの接点（真実の瞬間）を多く良好なものにするための努力は重要なポイントであり、筆者も利用する都度印象的に感じることである。

・機内食への注力：これも同社が他社に先駆けて注力・進化させている大切な要素である。上級クラスでは世界的な有名シェフチーム（インターナショナル・カリナリー・パネル）が監修した上質の料理が提供され、エコノミークラスの料理にも選択の幅を広げるなど注力している。特に、健康上、宗教上の理由で制限がある場合の特別食（スペシャルミール）は30種類以上の中から選択が可能となっており、その他子供食やベジタリアン向けなどの特別食も準備している。さらに世界の他の航空会社に先駆けて進化させている機内エンターテイメントシステムや座席なども重要なポイントである。

上記の諸点に加え、効率化や高い生産性への全社的な意識、役職員による優れた企業の一員であることへの誇りとモチベーションの高さ、一貫した広報・広告戦略なども同社の経営力の強さや、ブランド浸透度の高さ・企業の名声に寄与している。

² シンガポールガールは、1994年以来、ロンドンのマダム・タッソー蝋人形館で展示されている。