2016年09月20日

ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2015年Annual Reportより(低金利環境下における状況、内部モデルの適用等)-

中村 亮一

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4―プロジェクション(将来予測)の結果

将来の収支状況等を把握することを通じて現在の財務状況のポジションを確認する上において、プロジェクション(将来予測)が重要な位置付けを占めている。

1|プロジェクションの内容と結果
BaFinは、生命保険会社に対して、2015年に2つのプロジェクションを行っている。

1つは、6月30日時点で、200bpの金利の上昇や保険ポートフォリオの40%の解約による影響をシミュレーションしているが、全ての生命保険会社が財政的に定義されたシナリオに耐えることができるとの結果となっている。

2つ目は、9月30日時点で、株価の22%の低下と金利の50bp上昇の影響をシミュレーションし、今後4年間のプロジェクションを行っている。

以上のプロジェクションの結果として、

「生命保険会社が短期的には契約上の義務を満たすことができるが、もし金利が低いままで推移すれば、会社の経済的ポジションがさらに悪化することが予想されるため、BaFinは、会社が、継続的な低金利フェーズにおいて、早期にかつ先見的で批評眼を有した方法で、将来の財務展開を分析することを確実にするために、密接に保険会社を監視していく。」

としている。また、

「生命保険会社が、適切な措置を間に合うように導入し、関連する準備を行うことが不可欠である。」

としている。

プロジェクション
BaFinは、2015年に、生命保険会社のために、1つは6月30日時点で、もう1つは9月30日時点という2つのプロジェクションを用意した。
BaFinは、定められた4つの異なる資本市場のシナリオが、現在の会計年度における保険会社のパフォーマンスにどのように影響するかを分析するために、プロジェクションを使用する。
6月30日時点のプロジェクションに対しては、保険会社は、200bpの金利の上昇や保険ポートフォリオの40%の解約が、保険料積立金について年間の現在の利益にどのような影響を与えるかをシミュレーションしなければならなかった。金利と解約の増加を伴う組み合わせシナリオはまた、BaFinが金利の短期的な大幅な増加と消費者行動の変化が保険会社のパフォーマンスにどのような影響を与え るかを推定することを可能にする。
プロジェクションに含まれた全ての生命保険会社が、財政的に定義されたシナリオに耐えることができた。たとえ使用された資本市場のシナリオが具体化したとしても、会社はその義務を履行することができるであろう。
9月30日時点のプロジェクションに対しては、保険会社は、その年の現在の利益に対する株価の22%の低下と金利の50bp上昇の影響をシミュレーションしなければならなかった。保険会社はまた、次の4年間のプロジェクションを行うことが要求された。
プロジェクションの分析は、生命保険会社が短期的には契約上の義務を満たすことができるだろうというBaFinの評価を確認した。しかし、もし金利が低いままで推移すれば、会社の経済的ポジションがさらに悪化することが予想される。BaFinは、したがって、会社が、継続的な低金利フェーズにおいて、早期にかつ先見的で批評眼を有した方法で、将来の財務展開を分析することを確実にするために、密接に保険会社を監視していく。生命保険会社が適切な措置を間に合うように導入し、関連する準備を行うことが不可欠である。

ソルベンシー
2015年12月31日時点のプロジェクションによると、全ての生命保険会社はソルベンシーIに定められたソルベンシー要件を満たしている。しかしながら、近年の減少傾向が続いており、ソルベンシー・マージン比率は、前期にまだ162%であったが、それは2015年に159%の将来予測値へとわずかに減少した。

2|2回総合生命保険調査(「Vollerhebung Leben」)の結果
自己資本の状況に関しては、総合生命保険調査が行われているが、これによれば、「事実上全ての生命保険会社は、2014年12月31日時点で、十分な自己資本を持っていたことを実証することができた。」としている。

なお、「ソルベンシーII比率については、経過措置やボラティリティ調整が所望の効果を発揮しているが、もし、低金利フェーズが持続すれば、今後16年間の移行期間中に、保険会社は累積€120億に達する追加の自己資本を調達する可能性に備える必要がある。」としている。
 

第2回総合生命保険調査(「Vollerhebung Leben」)の結果

金利の大幅な減少により、BaFinは2015年にソルベンシーIIIの対象となる全てのドイツの生命保険会社の自己資本の状況に関する第2回総合生命保険調査を実施した。調査は2014年12月31日時点ベースで行われた。
事実上全ての生命保険会社は、2014年12月31日時点で、十分な自己資本を持っていたことを実証することができた。十分な自己資本を持っていなかった保険会社の数は、最初の包括的な調査と比較して増加しなかった。ソルベンシーIIの開始時に潜在的な困難に直面していた保険会社は、自己資本の十分なレベルを確保するために、BaFinによって厳密に監視されている。
第2回総合調査は、再び、ソルベンシーIIの下で提供される経過措置とボラティリティ調整が所望の効果を発揮していたことを確認した。それにもかかわらず、生命保険会社は、もし低金利フェーズが持続すれば、16年間の移行期間中に自己資本基盤を強化するためにかなり努力をする必要がある。彼らは、この期間中に累積€120億に達する追加の自己資本を調達する可能性に備える必要がある。
ソルベンシーII比率は、スプレッドと金利の変化に非常に敏感だった。生命保険会社は、したがって、自己資本状況が短期間で急激に変化する可能性に対して、心構えをしておかなければならない。

5―まとめ

5―まとめ

以上、ドイツの生命保険会社の健全性及びソルベンシーに関して、(1)低金利環境下における生命保険会社の状況、(2)ソルベンシーIIの内部モデルの適用状況、等について、BaFinの2015年のAnnual Reportに基づいて、報告を行ってきた。

これは、あくまでもこれまでの監督制度をベースにしつつ、新たなソルベンシーII制度への移行過程を踏まえた上での状況を示している。

当然のことながら、BaFinは、監督官庁として、ドイツの生命保険会社の現状を熟知し、十分な分析に基づいて、対処すべき課題を明確にして、必要な対応を行ってきており、Annual Reportには、そうしたBaFinの対応策や考え方が示されている。その中でも、今後は、ソルベンシーII制度の円滑な実施と改善等を通じて、さらに充実した健全性の枠組みを構築していくことを目指す姿勢が示されている。

次回は、こうした新たなソルベンシーII制度の下での、ドイツの生命保険会社のソルベンシー比率の状況等に関して、BaFinが公表した内容について、報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年09月20日「保険・年金フォーカス」)

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