2016年09月20日

ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2015年Annual Reportより(低金利環境下における状況、内部モデルの適用等)-

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1.確率論的キャッシュフロー予測モデル
準備段階では、BaFinは、SCRを決定するための基礎として使用される、ソルベンシーIIの下で技術的準備金を計算するために、生命及び健康保険会社によって使用される確率論的キャッシュフロー予測モデルとして知られているモデルに広範囲に対処した。将来の保険契約者の行動に関する仮定のような、非常に複雑なモデルの個々の構成要素は、SCRの水準にとって大きな意義があるものなので、BaFinは、内部モデルの確率論的キャッシュフロー予測モデルの一部のリスク関連の要素を検討することを決定した。各国の欧州監督当局は、まだこれらのモデルは、監督の視点からどのように扱われるべきかを議論しているが、彼ら全員が、SCRにとって重要な意義があることを認識している。
どのような結果になろうとも、BaFinは将来的に標準的な式を使用する会社の確率論的キャッシュフロー予測モデルを検証する。

2.国債からのリスク
議論のためのもう1つのポイントは、ドイツの保険監督法(Versicherungsaufsichtsgesetz:VAG)の116条1項(§116(1))に従い、内部モデルは、全ての重要なリスクをカバーしなければならない、ということにある。BaFinの見解では、これはまた、国債のスプレッドとデフォルトのリスクが含まれるが、これらのタイプのエクスポージャーは、通常、個々の投資ポートフォリオのかなりの割合を占めているので、それゆえ特別なリスク管理の注目を受ける必要がある。これに関するスプレッドリスクは、対応するリスクフリー金利と比較して、個々の国債利回りのスプレッドの潜在的変化による自己資本の変化を指している。特定の条件下で、標準的な式は、これらのタイプのエクスポージャーに対して、ゼロbpのスプレッドの拡大を前提としている。
BaFinのポジションは、2015年4月に欧州保険・企業年金監督局(EIOPA)によって発行された「内部モデルの申請準備に関する意見」と一致している。そのモデル承認がスプレッドと信用リスクモデリングを含んでいる全てのドイツの保険会社が、国債から生じるリスクが資本によって支えられていることを確認する必要がある。

3.モデル検証
モデルの検証は、別の頻繁に議論される問題だった。役員会は、全体としてのモデルだけでなく、内部モデルの個々の要素が適切に検証され、基礎となるデータやプロセスの品質を守ることを保証する、ことに対して責任がある。これは、適切な検証プロセスを実施することによって行われる。モデル検証のための法的要件が、ソルベンシーII委任規則2015 / 35.107の241条と242条と結び付けられた保険監督法の120条に規定されている。効果的な検証プロセスを通じて、自らの意思決定者とBaFinの双方にとって透明なモデルの長所と短所を作り、保険監督法の115条の下で必要な使用テストを補完する。検証プロセスは、適切な報告システムとの組み合わせで、内部モデルを向上させるための出発点であり、特定の状況下で、承認を受ける必要がある将来のモデル変更のトリガーにもなる。
検証プロセスは、モデルの承認申請のいかなるレビューにおいても基本部分となる。BaFinは、事前の申請段階の過程で重要な改善を指摘した。事前の申請段階の開始時に、個々の保険会社の検証活動はあまりよく発達していなかったが、時間をかけて、会社は強化の必要性を認識し、その後、具体的な検証活動を開発し、それらを検証プロセスに埋め込んだ。BaFinは、今後数年間で、この点でさらなる改善を期待している。検証は、最終的には、固有のモデルの不確実性を評価するのに役立ち、このような方法で、内部モデルに対する会社とBaFinの信頼を強化する。

次のステップ
もし、検証の結果として、会社が既に承認を受けたモデルがもはや長期的に要件を満たさないことや、例えば、新しい保険商品の導入や新しい市場における活動の開始というような、事業政策の決定のために、もはや適切にリスクを把握することができない、と判明した場合には、会社は、モデルを変更することが要求される。BaFinは、保険監督法の11条2項が満たされている下で、必要に応じてモデル変更のための政策の特定の定量的または定性的な基準を設けて、事前にこれらの変更を承認しなければならない。
2016年については、BaFinは、保留中の申請プロセスを最終化するだけでなく、最初のモデルの拡張や変更のための申請を受け取ることを想定している。モデルの拡張は、次のいずれかの状況を表している。
- グループモデルに含まれるエンティティの範囲の拡大
- 承認された内部モデルが、承認日から、グループ・ソルベンシーだけでなく、個々の単体の(ソロ)SCRの計算にも使用される
- モデル化されたリスクの範囲の拡張
会社は、おそらくまた、内部モデルの承認のための新しい申請を提出することができる。

欧州レベルでのさらなる調和
EIOPAは、さらに2016年に内部モデルの監督の調和に焦点を当てる。まず、全ての承認された内部モデルは、欧州で標準化された要件を満たすことになる。第二に、適切な定量ツールが、内部モデルの継続的な監督において、監督当局を支援するために開発される。
さらなる調和をもたらすために、EIOPAと国家監督当局は、例えば一般的な市場リスクモデルのキャリブレーションあるいは、特に国債からのリスクを考慮することについて、ベンチマーク調査を実施する。
EIOPAは、「内部モデル継続的妥当性指標(Internal Model On-Going Appropriateness Indicators:IMOGAPI)」とのタイトルで、適切な監督ツールの開発に一体となっている。これらは、監督当局が、使用されるモデルの性能をテストし、異常を検出することを可能にする。これらの活動の初期の結果は、2016年末以前には想定されていない。

BaFinによる継続的な監督
BaFinは、これらの活動に関与しており、また、これに関して、独自の調査を行っている。したがって、BaFinは、SCRを計算するための内部モデルを使用している保険会社が、常に111条から121条までの規定を遵守しているかどうかを、保険監督法294条5項に基づいて、定期的にチェックする。継続的なモデル監督の一部を形成する検査は、できるだけ内部モデルの潜在的な乱用を防止することを意図している。このような乱用は、例えば、特定のモデリングアプローチへの優先又は多くのケースにおいて、規制上の資本要件を軽減する試みの中で、現われる。 2016年には、BaFinは、最新の検証レポートを分析し、会社とそれらを議論することを開始する。

概要
要約すると、内部モデルは、一旦最初の承認が得られたら、決して、保険会社とBaFinのレーダーから消えない、ということに留意すべきである。それらは日々の監督の一部のままになる。加えて、BaFinは、他の国の監督当局やEIOPAと一緒に、欧州で調和がとれたモデルの監督の確立に努めている。

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中村 亮一

研究・専門分野

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