2016年09月20日

ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2015年Annual Reportより(低金利環境下における状況、内部モデルの適用等)-

中村 亮一

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1―はじめに

ドイツの生命保険会社の健全性やソルベンシーについては、昨今の低金利環境下で、高い注目を浴びる状況になっている1

ドイツの生命保険会社は、(1)伝統的に養老保険等の長期の利率保証型商品が主力であったため、現時点においても責任準備金に占める利率保証型商品のウェイトが高く、負債のデュレーションがかなり長くなっている、(2)その平均的な保証水準を示す平均予定利率は3%程度2と、現在の市場金利等に比べてかなり高い水準にとどまっている。(3)一方で、資産サイドにおいては、債券・貸付等の確定利付資産が極めて高い割合を占めているが、債券市場は10年国債が中心で、30年国債等も発行されており一定の残高シェアを有してはいるものの、資産のデュレーションは、負債に比べてかなり短いものとなっている。(4)そのため、資産と負債の間に大きなデュレーション・ギャップが発生している状況にある3

また、これらの結果として、現在のような長期に低金利環境が継続する中では、収益面で大きなマイナスの影響を受けるリスクを抱える構造になっている。

こうした状況について、例えば、Moody’sはその2015年3月26日付のレポート4の中で、ドイツを、オランダ、ノルウェー、台湾と並んで、「収益性に対する非常に高いリスク」にさらされている生命保険市場を有する国に分類し、厳しい見方を示している。

今般、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)は、2015年のAnnual Report(年次報告書)を5月10日(英語版は7月15日)に公表し、その中で生命保険会社を含む監督下にある金融機関の状況について報告を行っている。さらに、IMF(国際通貨基金)は、6月29日に、ドイツの金融監督に対するFSAP(Financial Sector Assessment Program:金融セクター評価プログラム)の結果を公表し、その中で、ストレステストの結果等に基づいて、ドイツの生命保険会社の状況について報告を行っている。

加えて、BaFinは、7月8日及び8月9日に、2016年1月にスタートしたソルベンシーII制度の下での生命保険・損害保険・健康保険・再保険といった保険事業別のソルベンシーII比率の状況について、公表している。

今回のレポートでは、「BaFinやIMFといった公的な機関が、ドイツの生命保険会社の健全性やソルベンシーを巡る状況について、どのような見解を示しているのか」を前述の報告書に基づいて、3回に分けて報告する。

今回は、まずはBaFinの2015年のAnnual Reportに基づいて、(1)低金利環境下における生命保険会社の状況、(2)ソルベンシーIIの内部モデルの適用状況、等について報告する。
 
1 ドイツにおける低金利環境下でのBaFinの対応等については、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか -ドイツ BaFin の例-」(2015.6.15)を参照いただきたい。
2 ただし、ZZR(Zinszusatzreserve:追加責任準備金)の積立により、実質的な平均予定利率は20bp~30bp程度引き下げられて、2%台後半になっていると想定されている。
3 EIOPA「Financial Sability Report May 2015」によれば、ドイツの生命保険会社の資産のデュレーションは約10年、負債のデュレーションは約20年で、両者に10年程度のギャップがあると報告されている。
4 Moody’s:Low Interest Rates are Credit Negative for Insurees Globally ,but Risks Vary by Country(2015.3.26)
 

2―低金利環境下における生命保険会社の状況

2―低金利環境下における生命保険会社の状況

1|低金利環境下における生命保険会社の状況と対応1
低金利環境下における生命保険会社の状況については、ZZR(Zinszusatzreserve:追加責任準備金)に対する評価を含めて、

(1) 低金利は生命保険会社を圧迫し続けている。
(2) 2011年に設立されたZZRについては、その目的は疑問視されないが、今後の低金利環境下でZZRのさらなる積立の増加が想定されることから、その適正な較正について、検証していくこと
(3) 低金利環境下でのソルベンシーIIの市場整合的な評価が、生命保険会社が取り組むべき努力を明らかにしていると、その意義を認めていること
(4) 経過措置については、あくまでも本来的な制度適用に向けての時間の猶予が与えられただけであり、各保険会社において、16年間の経過期間中に、各種のオプション(コストの削減、商品ポートフォリオの見直し、再保険ソリューションの活用、ポートフォリオの一部移転等)を利用する等の適正な対応がなされていくべきことを注視していくこと

等が述べられている。

具体的には、以下の通り記述されている5

低金利はまた、保険会社、特に生命保険会社を圧迫し続けている。投資のリターンが連続して下落している。2011年には、ZZR(Zinszusatzreserve:追加責任準備金)が、この傾向を相殺するためのツールとして設立された。それ以来、生命保険会社は、持続的な低金利に対して備えるために、また保険契約者に与えた保証の履行を確実にするために、追加の準備金を認識することが要求されてきている。したがって、BaFinは、原則としてZZRの目的を疑問視していない。

しかしながら、金利はさらに低下してきたので、ZZRは急速に増加し続けている。2015年単独で、保険会社はこの準備金の積立に€100億以上を費やし、準備金は2015年末に合計€320億となった。さらに、急激な増加が来るべき年で想定されている。BaFinは、セクター全体及び個々の会社の両方におけるこの進展を観察している。必要が生じた場合、ZZRが適切に較正されているかどうかを検証する。

しかし、法的枠組みの変更だけでは十分ではない。生命保険会社が保証債務を満たすことができるように、生命保険会社自体が、初期の段階で可能な全てのことをしなければならない。ソルベンシーIIの下での市場整合的な評価は、低金利環境でどのような努力が必要とされているのかを明らかにしている。

新しいフレームワークは、経過措置が含まれているが、それらは問題を解決するのではなく、むしろ少しより多くの時間を与えるだけである。
BaFinは、その業績が中期的に疑問を提起する会社のために、マンツーマンカバレッジを提供する。BaFinはまた、生命保険会社に対して、遅くとも16年後に終わる経過措置が無くなった場合に向けて、どのように十分な資本基盤を確保しようとしているのかについて質問する。

どのようなオプションが生命保険会社に利用できるのか? 彼らは、例えば、コストを削減し、再保険ソリューションを考えることができる。彼らは商品ポートフォリオに取り組み、異なる保証付新商品を開発することができる。一部の会社は、完全に伝統的な保証商品を販売停止している。さらには、決済のためのプラットフォームを流出させるために、ポートフォリオの一部の移転を検討している会社もある。これは、保険契約者の利益が維持される限りにおいて、原則的にはオプションである。

 
 
5 以下の引用は、全てBaFinの2015年のAnnual Reportからのものである。
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中村 亮一

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