2016年09月20日

「脱・産みの苦しみ出産社会」を目指して-少子化社会データ再考:国際的に見た女性活躍と脱少子化に不利な日本のある特徴とは-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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5――笑顔の出産、そして笑顔の育児社会の実現を

データから見ると国際的には一見「産みの苦しみを放置している社会」に見える日本社会の無痛分娩施設不足の背景には、以下の要因があるようである。

まず無痛分娩サービスの供給サイドであるが、複数の医師(産科医師、女性外来医師、麻酔医)へのインタビューによれば、
 (1) 麻酔医不足
 (2) 医療の世界における産科麻酔医のブランドの低さ
 (3) コストパフォーマンスの悪さ
等があるという。

また、需要(無痛分娩希望者)サイドであるが出産・育児雑誌等に寄せられる意見から見れば、
 (1) 希望しても施設の空きがなかった
 (2) 妊婦本人は希望しているが身内に、陣痛は当たり前などと反対された
 (3) 無痛分娩費用がかかる(日本産科麻酔学会によれば、個人施設で0~5万円、一般総合病院で3~10万円、大学病院で1~16万円)
等が主な理由となって<需要の潜在化>が生じているようである。

医療サービス供給サイドの事情は当然あるだろう。しかし、他の先進国の無痛分娩率の高さ(図表1)を見る限り、供給サイドの問題は何かしら解決方法があるはずである。

また、女性活躍が日本より進む世界の先進諸国の水準を見る限り、日本においても女性の無痛分娩へのニーズは現在の実施数の10倍程度はあるのではないかと考えられる。

実際、民間アンケート調査においても無痛分娩は実に8割を超える支持のある分娩法であり、そのニーズの高さがうかがえる(図表6)。

残念ながら、このマイナビ調査によると、「反対派の多くは男性。『自然でないから』や『痛みを知ってこそ母親になれる』といった意見が男性から出ていたのが特徴的だった。」そうである。どれも実際に産む立場にないからこそでてくる意見であるように見える。
【図表6】無痛分娩に賛成か、反対か(%)
子育ては男女ともおこなうことが可能であるが、出産だけは女性にしか取り組むことが出来ない。それだけに、「本気の女性活躍推進」というならば、海外から見るとやや異常ともいえる日本における「産みの苦しみ放置社会」とも言える状況を何とかするべきではないだろうか。

子どもにとって、親がどれだけの期間どうしてくれるのか、といった条件よりも、側にいるときは満面の笑顔で、心身にゆとりをもって接してくれる、そのことの方がはるかに幸福なのではないか、筆者にはそう思えてならない。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2016年09月20日「基礎研レター」)

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