2016年09月15日

スマートフォンは金融サービスを変えるか-スマートフォンを介した金融サービス利用者の特徴と利用実態

生活研究部 井上 智紀

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

3――金融関連サービスでの利用動向

前述のとおり、スマートフォンは広く普及してきているものの、スマートフォンによる金融取引は、過去1年間では1割程度と未だ途上の状況にあるようである。では、スマートフォンを用いた金融関連のサービス利用者は、どのような特徴を有しており、どのようなサービスを利用しているのだろうか。以降では、日経リサーチ社が2015年10月に実施した「金融総合定点調査 金融RADAR2015」1の個票データを用いて、スマートフォンを介した金融関連サービス利用者の特徴および利用状況を概観していく。
図表3 スマートフォンによる取引の利用経験・頻度 1|スマートフォンによる金融サービス利用者の特徴

(1)属性別の特徴
はじめに、スマートフォンのネット機能を用いた金融サービスの利用経験についてみると、「利用経験あり」は全体では20.1%となっている(図表3)。利用頻度をみると、「何度か利用したことがある程度」が7.5%、「2~3か月に1回程度以下」が2.6%と、経験者の半数以上が日常的に利用しているわけではないものと思われる。利用経験について属性別にみると、性別では男性で22.2%と女性(17.3%)に比べ高く、年齢別では20~40代で3割弱と50代以上に比べ高くなっている。本人職業別では、正規就業者で30.4%と高い。また、インターネット通販(ネット通販)の利用経験別では、ネット通販利用者は28.7%と全体に比べ高く、特にスマートフォンでの利用者で45.0%と突出して高くなっている。インターネットバンキング全体の利用経験は4割(42.9%)程度であり、年齢別では30~50代で高くなっていることを踏まえれば、足下のスマートフォン経由の金融サービス利用者は、やや若年層に偏っているといえよう。

(2) 金融に関する意識面の特徴
次に、意識面の特徴をとらえるために、拙稿(2016)2で用いた「金融リテラシー」と「コンサルティング/情報希求」の2つの因子より4種類に分類したセグメントの構成比を、スマートフォンを介した金融取引の利用経験の有無別にみると、利用経験あり層では利用経験がない層に比べ「低金融リテラシー/低コンサルティング・情報希求」で低く、「高金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求」が高くなっている(図表4)。
図表4 金融意識セグメント別の構成比
このように、スマートフォンを介した金融サービスの利用者は、20~40代の男性正規就業者が中心となっており、特にスマートフォンを介したインターネット通販の利用者で多くなっていた。また、金融に関する意識の面では、スマートフォンを介した金融サービスの利用者は非利用者に比べ金融リテラシー、相談ニーズがともに高い層の割合が多くなっていたことから、自身の金融リテラシーを頼りに相談を必要としない金融取引についてはスマートフォンを介してでもセルフサービスで行おうとする傾向にあるものと考えられる。では、実際にスマートフォンではどのような金融取引が行われており、今後どのような取引において利用の拡大が見込まれるのだろうか。
 
 
1 調査対象は首都圏40km圏の20~74歳男女個人。有効回収数:2,655サンプル
2 井上智紀(2016)「金融リテラシーは向上しているか―優先すべきは消費者視点に基づくチャネルの位置づけの再考―」『基礎研レポート』2016年4月14日
2|利用経験のある金融サービスと今後の意向

(1) 利用経験のある金融サービス
最近1年間にスマートフォンで利用した金融関連のサービスについてみると、全体では「残高・入出金明細照会」が13.9%で最も多く、以下、「振込・振替」(9.1%)、「電子マネーのチャージ」(4.2%)、「株式売買」(4.0%)の順となっている。年齢別にみると、「残高・入出金明細照会」は若年層ほど高く、20~30代では2割を超えている。また、「振込・振替」は20~40代では1割を超えており、「電子マネーのチャージ」は30~50代では5%を超えているなど、利用率の水準自体は低いながらも、年代により利用経験のあるサービスの内容にはそれぞれ差異がある様がみてとれる。

また、金融意識セグメント別にみると、“低金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求”、“高金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求”で「残高・入出金明細照会」、「振込・振替」、「電子マネーのチャージ」が比較的高く、“高金融リテラシー/高コンサルティング・情報希求”、“高金融リテラシー/低コンサルティング・情報希求”では「株式売買」も他のセグメントに比べ高くなっている。

これらの結果は、前述のとおり相対的に高い金融リテラシーを有する消費者が、店頭に出向くことなく、スマートフォンを介したセルフサービスで自らの金融取引ニーズを解消していることを意味している。また、こうした中に潜在的に相談ニーズを抱える消費者が含まれていることは、金融機関にとって、スマートフォンによる金融サービスの利用者を店頭でのコンサルティングにつなげていくための適切な導線設計が肝要であることを意味している。
図表5 スマートフォンで利用した金融サービス(上位10項目)
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

経歴

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【スマートフォンは金融サービスを変えるか-スマートフォンを介した金融サービス利用者の特徴と利用実態】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

スマートフォンは金融サービスを変えるか-スマートフォンを介した金融サービス利用者の特徴と利用実態のレポート Topへ