2016年09月09日

米国経済の見通し-4-6月期の成長率は、特殊要因で期待外れの結果も、7-9月期以降は再加速の見込み

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(政府支出、財政収支)18年度以降は選挙結果次第
議会予算局(CBO)が8月に公表した財政収支見通しによれば、16年度(16年9月末まで)の財政赤字は▲5,900億ドル(GDP比▲3.2%)と、15年度の▲4,380億ドル(同▲2.5%)から増加した(図表16)。歳入が260億ドル増加する一方、歳出が1,780億ドル増加した。歳出は前年度から5%程度増加したが、歳出法案で規定される裁量的経費が1%程度増加する一方、社会保障などの義務的経費が6%増加したほか、利払い費が11%増加した。また、3月時点での予想と比べて16年度の財政赤字は、歳入が予想を下回った結果560億ドル増加した。一方、長期の財政収支見通しでは金利見通しが下方修正されたことから、財政赤字幅は下方修正された。

17年度については、15年超党派予算法4により、予算枠や17年3月まで債務上限を適用しないことが決まっている。議会は10月からの新年度に向けて各省庁への予算配分を決める歳出法案の審議を行っている。現状(9月7日時点)、上院では歳出法案を可決しているものの、下院では可決できていないため、時間的な制約からつなぎ融資(CR)で新年度を迎える可能性が高まっており、つなぎ融資の期間について議論されているようだ。
(図表16)歳出・歳入、財政収支見通し(GDP比)/(図表17)債務残高見通し(GDP比)
一方、18年度以降については11月の大統領・議会選挙の結果次第で大きく変わる。クリントン候補は、基本的にオバマ政権の政策を継承していることから、ベースライン予想から大きく変動することはないと予想される(図表17)。しかしながら、トランプ大統領の場合には社会保障などの歳出は、現在の水準を維持する一方、個人、法人ともに大幅な減税を実施するとしていることから、債務残高は大幅に増加することが見込まれている。いずれにせよ、米国の予算審議では議会の権限が強いことから11月の議会選挙の動向が注目される。
 
 
4 2015年超党派予算法成立の経緯や内容については、Weeklyエコノミスト・レター(2015年11月20日)「2015 年超党派予算法が成立-17年の新政権発足まで政府機関閉鎖、米国債デフォルトリスクは低下」http://www.nli-research.co.jp/report/econo_letter/2015/we151120us.htmlを参照下さい。
(貿易)純輸出の成長率寄与度は当面マイナスが持続
4-6月期の純輸出は、輸入が前期比年率+0.3%(前期:▲0.6%)となる一方、輸出が+1.2%(前期:▲0.7%)と、輸入の伸びを上回った。月次の貿易収支では、7月の輸入(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)が+9.1%と輸出の+4.8%を上回っており、貿易赤字(3ヵ月移動平均)は足元拡大している(図表18)。

米ドル実質実効レートは、16年2月をピークにドル高是正がみられたものの、足元では再びドル高に転じている(図表19)。ISMの新規輸出受注指数は、非製造業で8月に50を割り込むなど急激な落込みがみられる一方、製造業については大幅な落ち込みとなっていない。しかしながら、今後も米国の金利先高観測を背景にドル高基調の持続が見込まれることから、製造業の輸出指数も低下してくる可能性が高いと見込まれる。
(図表18)貿易収支(財・サービス)/(図表19)ISM新規輸出受注および実質実効レート
米国はドル高に加え、相対的に景気が良好な状況が持続すると見込まれることから、17年末にかけて純輸出は成長を押下げる方向で推移することが予想される。
 

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(図表20)消費者物価の推移(寄与度) (物価)総合指数は原油価格の上昇に伴い緩やかに上昇へ
消費者物価の総合指数は、7月に前月比横這いと16年2月(▲0.2%)以来の低い伸びに留まった。エネルギー関連が▲1.6%と2月以来のマイナスに転じたことが大きい。エネルギーと食料品を除いたコア指数も+0.1%と16年3月(+0.1%)以来の低い伸びとなっており、前月比でみた物価の加速はみられない。

さらに、前年同月比でも総合指数が+0.8%と4月以降低下基調となっている(図表20)。4月に▲8.9%までマイナス幅が縮小していたエネルギー関連が、足元で再び2桁のマイナスに拡大している影響が大きい。

もっとも、当研究所では、原油価格が足元の40ドル台後半から17年末にかけて50ドル台前半まで緩やかに上昇すると予想しており、昨年の原油価格が6月に60ドル程度のピークをつけた後、年末にかけて30ドル台後半まで低下していたことを考慮すれば、前年比でみたエネルギー価格の物価押下げ効果は逓減すると見込まれる。このため、総合指数はコア指数との乖離を埋める形で緩やかに上昇しよう。当研究所では、総合指数は16年が前年比+1.2%、17年が+2.3%に上昇すると予想している。
(金融政策)16年の追加利上げは12月の1回、17年は6月、12月の年2回を予想
6月のFOMC会合では追加利上げが見送られ、その理由として5月雇用統計を受けた雇用悪化懸念と、6月下旬の英国国民投票の結果を見極めることが挙げられた。その後、英国のEU離脱が決定した後、資本市場が懸念されるような不安定な動きとならなかったことから、7月のFOMC声明では米国経済に対する短期的なリスクが後退したことが示された。もっとも、7月のFOMC議事録では、労働市場の力強い回復もあり、6月会合から米景気回復に自信を深めている様子が伺えるものの、追加利上げ時期については各委員の意見集約がされていない状況が示された。

その後、8月下旬のジャクソン・ホールで行われたシンポジウムでイエレン議長が早期の追加利上げの可能性に言及したほか、フィッシャー副議長をはじめ複数の中銀関係者が9月の追加利上げの可能性に言及したことから、一時金融市場で9月利上げ織込みが4割を超えるなど、早期利上げ観測が強まった。

英国EU離脱決定に伴う米経済への影響は足元では払拭されているものの、物価上昇圧力が限定的となっている中で、4-6月期の成長率が予想外に低調となったことや、8月の雇用統計が雇用回復ペースの鈍化を示したことを含めて最近発表された経済指標は強弱混じっている。このため、当研究所では9月のFOMC会合で追加利上げで意見集約される可能性は低いと考えている。また、市場の9月利上げの織込みも現状では3割弱まで低下しており、9月利上げを市場に納得させるのは難しいだろう。当研究所では16年は12月の1回、17年は資本市場が安定する前提で6月と12月の年2回を予想する。
(図表21)米国金利見通し (長期金利)緩やかな上昇を予想
長期金利(10年国債金利)は、6月下旬の予想外の英国によるEU離脱決定を受け、7月上旬には史上最低水準となる1.3%台半ばに低下。その後、上昇に転じたものの直近(9月8日時点)でも1.6%程度と英国民投票以前より低い水準で推移している(図表21)。

長期金利は、政策金利の引き上げ継続などを背景に17年末に向けて上昇すると予想する。もっとも、今後も物価上昇は限定的とみられるほか、政策金利の引き上げペースも緩やかなことから、長期金利の水準は16年末で1%台後半、17年末でも2%台前半に留まろう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年09月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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