2016年09月09日

米国経済の見通し-4-6月期の成長率は、特殊要因で期待外れの結果も、7-9月期以降は再加速の見込み

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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2.実体経済の動向

(個人消費)労働市場の回復を背景に底堅い伸びが持続
非農業部門雇用者数(対前月増減)は、5月が2.4万人の増加に留まり雇用悪化懸念が強まったが、6月、7月が20万人台後半に急増したことから雇用回復の持続が確認された(図表7)。雇用統計は毎月の変動が大きいため、トレンドの見極めが難しいが、民間給与アウトソーシング会社であるADP社が発表する非農業部門の民間雇用者数と併せて考えると、5月以降の雇用増加ペースは10万人台後半程度とみられる。これは、15年の月間平均増加数(22.9万人)を下回っているが、労働市場が完全雇用に近づいているとみられるため、雇用増加ペースは今後も10万人台半ばから後半程度に留まろう。

一方、労働力人口の増加を背景に労働参加率2は15年夏場以降に回復がみられており、労働需給が本格的に改善していることを示している(図表8)。これまで失業率の低下基調は持続していたものの、職探しを諦め労働市場から退出する人(非労働力人口)が増加した影響も反映されていたため、本当の意味で労働需給が改善していたとは言えなかった。15年夏場以降の労働需給改善に伴い、時間当たり賃金の上昇が明確となってきているため、労働市場の回復が漸く賃金上昇に繋がり易くなっていると判断できる。このため、労働市場の回復を背景とした所得の増加は今後も消費拡大に寄与することが期待できる。
(図表7)非農業部門雇用者数増減(前月差)/(図表8)時間当たり賃金上昇率および労働参加率
次に個人消費および所得をみると、4-6月期の個人消費は、実質可処分所得(前期比年率+2.3%)の伸びを上回る結果となった(図表9)。労働市場の回復が持続する中でも1-3月期の個人消費は+1.6%に留まり、所得対比で消費が抑制されていたが、年初から2月にかけての株価下落が消費者マインドの悪化を通じて消費に影響した可能性が強まった(図表10)。足元は、株式市場が堅調推移となっており所得の伸びを素直に反映し易い環境と言えよう。

もっとも、4-6月期の個人消費は1-3月期の反動も加わって高くなったとみられることから、7-9月期以降は、消費の伸びは鈍化が見込まれる。また、前述のように時間当たり賃金の伸びは加速が見込まれるものの、雇用増加ペースが鈍化することから、個人消費の伸びは17年末にかけて2%台半ばまで低下しよう。
(図表9)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得/(図表10)消費者センチメントおよび米株価指数
 
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
(設備投資)原油価格の持ち直しから、7-9月期以降緩やかな回復へ
民間設備投資のうち、資源関連の建設投資は4-6月期が前期比年率▲57.4%(前期:▲32.7%)と、原油価格下落を背景に6期連続のマイナスとなっており、設備投資を押下げる状況が持続している(図表11)。原油価格は、2月の30ドル割れを底に上昇に転じており、原油生産の減少は続いているものの、原油の稼働リグ数は5月下旬を底に増加に転じていることから、漸く資源関連の建設投資の下落にも歯止めがかかってきている(図表12)。当研究所では、原油価格は17年末にかけて50ドル台前半まで緩やかに上昇すると予想しており、資源関連の建設投資が下げ止まることで民間設備投資は回復が見込まれる。
(図表11)民間設備投資(GDP寄与度)と原油価格/(図表12)米国原油生産と稼働リグ数
(図表13)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資 さらに、民間設備投資の先行指数である国防・航空を除くコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は▲1.3%とマイナスとなっているものの、16年2月(▲13.2%)を底にマイナス幅を大幅に縮小させてきており、7-9月期の民間設備投資は4期ぶりにプラスに転じるとみられる(図表13)。

もっとも、今後も緩やかなドル高基調が持続することから、輸出を中心に製造業にはネガティブな状況となっており、回復は緩やかに留まろう。
(住宅投資)7-9月期にプラス転換、その後も緩やかな回復基調が持続
住宅投資は、14年1-3月期以来のマイナスに転じたものの、7月の住宅着工件数・許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、住宅着工件数が+5.2%のプラスとなっているほか、住宅着工件数の先行指数である許可件数も+8.8%と5ヵ月ぶりにプラスに転じており、4-6月期からモメンタムの回復がみられる(図表14)。また、新築・中古住宅ともに販売が好調で住宅在庫が低水準となっていることも、住宅着工件数の回復を後押しするとみられる。

さらに、住宅市場を取り巻く環境も、雇用不安が後退する中で、低金利環境が持続するなど、住宅市場に追い風となっている。実際、連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)が公表している住宅購入センチメントは、統計開始(11年3月)以来の最高値圏で推移しており、家計の住宅購入意欲が強いことが分かる(図表15)。

このため、住宅投資は7-9月期にプラスに転じ、当面緩やかな回復基調が持続すると予想する(住宅市場の見方については8月の当レポート3も参照下さい)。
(図表14)住宅着工件数と実質住宅投資/(図表15)住宅購入センチメント指数
 
3  Weeklyエコノミストレター(2016年8月19日)「米住宅市場の回復は一服?-4-6月期GDPにおける住宅投資はおよそ2年ぶりにマイナス転落。住宅市場の回復は持続するのか」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53662?site=nli
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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