2016年09月09日

米国経済の見通し-4-6月期の成長率は、特殊要因で期待外れの結果も、7-9月期以降は再加速の見込み

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)4-6月期の成長率は、在庫投資の影響で予想外に低調
米国の4-6月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、前期比年率+1.1%(前期:+0.8%)と前期から加速したものの、市場予想(+2.5%)を大幅に下回り3期連続で1%程度の低成長に留まった(図表1、図表6)。

需要項目別にみると、個人消費が前期比年率+4.4%(前期:+1.6%)と前期から大幅に加速し、成長率を+2.9%ポイント押上げたほか、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度も+0.10%ポイント(前期:+0.01%ポイント)と2期連続のプラスとなった。しかしながら、民間設備投資が前期比年率▲0.9%(前期:▲3.4%)と3期連続のマイナスとなったほか、住宅投資も▲7.7%(前期:+7.8%)と14年1-3月期以来のマイナスに転じ成長を押下げた。さらに、政府支出が▲1.5%(前期:+1.6%)とこちらもマイナスとなった。もっとも、当期が予想外の低成長に留まった要因は、在庫投資の成長率寄与度が▲1.26%ポイント(前期:▲0.41%ポイント)と、14年1-3月期(▲1.89%ポイント)に次ぐ大幅なマイナスとなったことが大きい。
(図表2)実質民間在庫変動および実質GDP成長率 在庫投資のマイナス寄与は5期連続となっているが、在庫変動の推移をみると16年1-3月期までは在庫積上げペースの鈍化によるものであった一方、4-6月期は11年7-9月期以来となる在庫削減によるものであったことが分かる(図表2)。00年以降で継続的な在庫減少がみられるのは、00年代前半のITバブル崩壊や、金融危機後のリセッション期に限られている。現状、米国経済は低成長に留まっているものの、リセッション期に入っているとは考え難いことから、在庫削減は一時的に留まる可能性が高い。このため、7-9月期は在庫投資の成長率寄与度が6期ぶりにプラスに転じよう。
一方、6月下旬に英国民投票で予想外にEU離脱が決定されたことから、投資家のリスク回避志向が強まり、資本市場の不安定化することが懸念された。実際、国民投票の結果判明後に株式市場が大幅安となるなど、資本市場は不安定な動きとなった(図表3)。しかしながら、株式市場は早期に反発し足元は年初来高値圏で推移しているほか、投資家の先行き不安を示すVIX指数も国民投票前の水準を回復するなど、懸念されたリスク回避志向の強まりはみられていない。さらに、長期金利は国民投票後に低下し、足元でも投票前の水準を下回っているほか、社債と国債の金利差である社債スプレッドは縮小しており、金融市場は非常に緩和的となっている(図表4)。このため、国民投票後の金利低下は、住宅市場をはじめ米経済にプラスとなっていると判断できる(詳細は7月の当レポート1を参照下さい)。このように、現段階では、英国のEU離脱決定に伴う米経済への影響は限定的となっている。
(図表3)米株価指数(S&P500指数)/(図表4)米10年金利および米社債スプレッド
 
1 Weeklyエコノミストレター(2016年7月22日)「英国のEU離脱の影響-米実体経済への影響は限定的とみられるも、現状では未だ不透明な部分が多い」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53442?site=nli
(経済見通し)成長率は16年+1.6%、17年+2.3%を予想
7-9月期は成長の加速が見込まれる。個人消費は労働市場の回復を背景に底堅い伸びが期待できるほか、在庫投資の成長率寄与度はプラスへの反転が見込まれる。さらに、民間設備投資や住宅投資についても回復しよう。一方、純輸出については、通貨高に加え米国景気が相対的に好調であることから、3期ぶりに成長率を押下げると予想する。これらの結果、7-9月期の成長率は前期比年率で3%台半ばとなろう。

7-9月期以降は、引き続き労働市場の回復を背景に消費主導の景気回復持続を見込むが、労働市場が完全雇用に近づく中、雇用者数の伸びは緩やかながら鈍化することが見込まれるため、個人消費は17年末にかけて前期比年率2%台半ばへの緩やかな低下を予想する。また、住宅市場についても雇用不安の後退や低金利を背景に回復基調が持続するものの伸びは鈍化しよう。

一方、民間設備投資については、17年末にかけて原油価格が緩やかに上昇すると見込んでいることから、資源関連の建設投資が増加に転じ、設備投資を押上げると予想する。しかしながら、米金利先高観測を背景に緩やかなドル高基調が持続することから、輸出関連の製造業を中心に回復は限定的となろう。また、純輸出は17年末にかけて成長を押下げる状況が持続しよう。最後に政府支出は、11月の大統領選挙の結果次第で17年以降は不透明感が強いものの、当面景気には中立となろう(図表6)。

物価は、原油価格が緩やかに上昇することから、エネルギー価格下落による物価の押下げが緩和されるため、総合指数は17年末にかけて緩やかな上昇を見込む。

金融政策は、16年は12月の追加利上げを予想する。17年は資本市場が安定する前提で6月と12月の年2回の追加利上げを予想する。

最後に長期金利は、資本市場の安定が続く前提で、政策金利の引き上げ継続などを背景に、緩やかに上昇すると見込む。もっとも、物価上昇圧力が限定的であることから、金利の上昇幅は限定的となろう。

上記見通しに対するリスク要因としては、英国のEU離脱や、中国をはじめ新興国経済への懸念から資本市場が不安定化することに加え、11月の大統領・議会選挙に関連する国内政治リスクが挙げられる。
(図表5)州別大統領選挙予想 大統領選挙は、共和党がトランプ氏、民主党はクリントン氏に候補者が一本化された。世論調査に基づく州別の選挙人獲得見通し(9月7日時点)は、クリントン候補が229人と過半数の270人は下回っているものの、トランプ候補の154人を大幅にリードしている(図表5)。一方、勝敗のはっきりしない接戦州は155人となっており、その中でも選挙人数が多いフロリダ州(29人)、ペンシルバニア州(20人)、オハイオ州(18人)の動向が選挙戦の鍵を握っている。足元、これらの州でもクリントン候補が僅かにリードしている。

もっとも、クリントン、トランプ両候補ともに有権者からの評価は低く、クリントン候補が優位となっているものの、トランプ不支持の裏返しとして消極的に支持されているに過ぎない。クリントン候補には国務長官時代のメール問題や、クリントン財団の問題などのスキャンダルが燻っており、その動向次第ではトランプ候補が勝利する可能性も残っている。

一方、クリントン大統領では、TPPで温度差がみられるものの、基本的にオバマ大統領の政策を継承するとみられ、米経済への影響が限定的と考えられるが、トランプ大統領では現政権からの大幅な政策変更が見込まれるほか、同候補の政策自体も流動的であることから、政策の予見可能性の低下を通じて米国経済にネガティブに影響しよう。
(図表6)米国経済の見通し
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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