2016年09月09日

景気ウォッチャー調査(16年8月)~2ヵ月連続の改善も、猛暑やオリンピック開催で限定的

岡 圭佑

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業動向関連は、製造業(前月差1.6ポイント)、非製造業(同2.3ポイント)ともに前月から改善した。コメントをみると、「公共工事は農業関係の受注が伸びており、民間建築工事も分譲マンション、商業施設が順調に推移している」(北海道・建設業)や「上半期に公示された大型公共工事の受注者が確定してきている」(東北・建設業)といったように、2016年度当初予算の前倒し執行による公共工事の増加を指摘するコメントが多数寄せられた。一方、「今まで比較的安定していた、海外向け衣料品容器等の受注が円高の影響で激減している」(南関東・プラスチック製品製造業)など円高が収益を圧迫するとのコメントも目立つ。

雇用関連では、「慢性的な人手不足が続いている。企業は人材確保のためには雇用条件の改善が必須である。求職者は、それを比較して好条件の労働に就ける可能性が高い」(四国・人材派遣会社)といったコメントのように、人手不足を背景とした企業の採用意欲の高さが伺える。その一方で、「求人倍率が高く、売り手市場であるものの、スキルのある人材ほど、希望職種に就けないミスマッチが潜在している」(北海道・求人情報誌製作会社)など、求人と求職の間のミスマッチを指摘するコメントもみられた。
地域別現状判断DIの前月差 地域別にみてみると、景気の現状判断DIは全11地域中6地域で対前月比上昇し、5地域で低下した。改善幅が大きかったのは北陸(前月差3.8ポイント)や東北(同2.4ポイント)で、沖縄(同▲7.0ポイント)、四国(同▲3.7ポイント)の悪化幅が大きかった。北陸、東北では、アイスクリームなどの夏物消費が好調であったとの声が聞かれたほか、新幹線が開業した北陸では山の日が設けられ連休がとりやすくなったこともあり観光客が増えたとのコメントも寄せられた。一方、四国では、小売店を中心に購買客数の対前年比での減少が続いたことに加え、猛暑で客足が鈍ったことも響いたようだ。

その他の地域においても、消費の増加が見込める夏季休暇や夏のセールにもかかわらず来客数が減少しているほか、購入単価が低下するなど、依然として消費の弱さを裏付けるコメントが散見された。

3.景気の先行き判断DI:2ヵ月連続の改善も、先行きの不透明感は依然拭えず

先行き判断DIは47.4(前月差0.3ポイント)と2ヵ月連続で改善し、参考系列として公表されている季節調整値も48.9と前月から2.3ポイントの改善となった。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連が前月差▲0.3ポイントと悪化したものの、企業動向関連(前月差0.9ポイント)、雇用関連(同2.8ポイント)が改善したため、全体では前月からプラスとなった。
景気の先行き判断DI/景気の先行き判断DI(分野別、原数値) 家計動向関連では、「新型スマートフォンの販売開始による市場の活性化を期待している」(四国・通信会社)とのコメントのように、スマートフォンの新製品発売への期待感が高まる一方で、「台風の影響で農作物の高騰が懸念される。客は価格に敏感なため、今後、節約志向が高まるとみられ、景気は変わらないまま推移する」(北海道・スーパー)など、天候不順による野菜など価格の高騰が購買力低下につながるとの懸念も示された。また、「残暑の予報もあり、現在の慎重な購買動向からも、秋物商材の立ち上がりに関して期待は薄い」(東北・百貨店)といったコメントのように、残暑で秋物商戦が不発に終わるとの不安も高まっている。デフレへの懸念に関しては、「円高、株安のデフレ傾向に振れており、消費者の意識に節約志向が出てきている」(南関東・スーパー)と、依然として根強い状況が窺える。

企業動向関連では、「円高でも製品価格は変更できないため、収益を圧迫している。自動車部品メーカーでは、設備投資計画の縮小や延期がみられる」(東海・一般機械器具製造業)のように、円高の悪影響を指摘するコメントが多く寄せられた一方で、「年度初めに各官庁から公表された発注見通しによれば、今後も下期に向けて大型公共工事の発注が進捗すると見込んでいる」(東北・建設業)など、経済対策への期待感が高まっている様子も見て取れる。

雇用関連では、「企業にヒアリングしたところ、中国経済の減速や英国のEU離脱問題による為替相場の変動に伴い、先行きの不透明感が増している」(近畿・職業安定所)といったように、世界経済の先行き不透明感から雇用環境が厳しくなるなど懸念材料もみられる。一方、「今月の新規求人数は、前年同月と比べて減少したものの、フルタイム求人を中心に企業の採用意欲は強く、引き続き求人増加が見込まれる」(南関東・職業安定所)など、先行きも企業の採用意欲は堅調に推移することを示唆するコメントが多数寄せられた。
8月調査では、現状判断DIが2ヵ月連続で改善したものの、消費者マインドの冷え込みが続くなか、消費を喚起する猛暑やオリンピック効果などがみられず、景況感は横ばい圏での推移が続いている。足もとでは円高・株安にいったん歯止めがかかっているが、日米金融政策の動向を巡って金融市場が再び混乱するリスクもあり、不透明な金融市場の動向が景況感の重石となろう。このため、景況感が短期的に改善基調に転じることは見込みにくく、当面足踏みが続くことが予想される。
各種コメント数の推移 インバウンド関連/猛暑・オリンピック効果関連(16年8月)/物価下落関連/円高・株安関連/熊本地震関連/英国のEU離脱関連
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岡 圭佑

研究・専門分野

(2016年09月09日「経済・金融フラッシュ」)

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