救急車の出動件数や、搬送された人の数は、年々、増加している。背景には、高齢化だけではなく、いくつかの問題もある。その課題と、改善に向けた取り組みを見ていこう。
1│頻回利用と軽症利用の課題がある
救急車の出動回数の増加には、同じ人が何回も救急車を呼ぶ頻回利用や、軽症の人が呼ぶ軽症利用の問題がある。
(1)一部利用者による頻回利用の問題
2014年に、10回以上、救急車を要請した人の実績を、見てみよう。
全国でわずか2,796人の頻回利用者が、年間52,799回もの出動要請をしている。これに対して、各消防本部は個別対策を行っている。例えば、事前に頻回利用者の家族等に説明しておき、本人の要請時には、家族等と協議の上、対応する、などである。
(2)軽症利用が約半数を占める問題
2014年に、救急車で搬送された人のうち、約半数の49%が軽症となっている。急病で49%、交通事故で77%、一般負傷で59%が軽症であった。近年、軽症での救急搬送が、多発している。
軽症での利用について、そもそも救急搬送の必要はなかったのではないか、との指摘がなされることがある。しかし、その中には、骨折等のため緊急に搬送を行い、直ちに治療を行う必要があったが、搬送先の医療機関において適切な治療を行うことで、入院せずに通院で治療することになった事例も含まれている。つまり、軽症の傷病者でも、救急搬送が必要な場合がある。
また、傷病の程度について、素人目には軽症に見えたとしても、医師の精密検査の結果、中等症以上と診断される場合もある。このような場合に、救急搬送をしなければ、症状が悪化する恐れも出てこよう。
2│転院搬送の適正化も必要
より高度な治療等のために、医療機関の入院患者等を、他の病院に搬送することを、「転院搬送」という。通常、病院の救急車等が使われる。緊急度や重症度が高い場合は、消防の救急車が使用される。その占率は低下傾向だが、件数は増えている。
転院搬送にも、課題がある。消防管轄区域外への搬送の許容範囲が不透明。医師・看護師等の同乗要請の協力度が低い。緊急度の低い転院搬送が多発、等である。そこで、要件の明確化や、ガイドラインの作成が行われている。
3│有料化の賛否が渦巻いている
頻回利用や軽症利用を背景に、救急車利用の、有料化の議論が出てきている。行政コスト削減の動きが強まる中で、その賛否が渦巻いている。2015年に、財政制度等審議会は、救急出動の一部有料化を検討すべき、との建議*4を財務大臣に行った。
このうち、頻回利用の問題については、個別対策で、一定の効果が上がっている。また、軽症利用については、医師以外の人が、どのように軽症の線引きをするかという問題がある。これが曖昧だと、救急隊と傷病者の間のトラブルが頻発しかねない。
また、有料化する場合、生活困窮者が救急要請を躊ちゅうちょ躇する懸念がある。有料化によって救急車の要請をためらった結果、救命に支障が生じれば、裕福な者と、生活困窮者の間で、医療格差が生じることにもつながりかねない。その他、実務では、料金徴収の事務負担の検討も必要となろう。
海外では、救急搬送を有料化している事例もある*5。有料化の議論の際は、これらの事例で、どのような効果や、問題が生じているかを、参考にすべきと考えられる。